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労働基準監督署・労働局に職場環境(埃・二酸化炭素濃度)の問題を相談する (1)

職場で健常者が気管支喘息を発症するほどの埃と、慢性的に息苦しさを感じるほど高濃度の二酸化炭素に悩まされ続けたので、役所の労働相談コーナーに相談に行った。

相談に先立ち書籍やインターネット上の情報を時間の許す限り調べたが、埃や二酸化炭素についてのトラブル事例・相談事例は少なく、勤務先(ワークスアプリケーションズ社)の社内にも使える知識・経験はほぼなかったので、結果的に行政機関の知恵と法令と判断に頼る形になった。

実際に改善までに結びついたことと結びつかなかったこととがあるが、身近な相談先の事例として、職場環境でお悩みの方の参考までに。

相談先

  • 労働局の労働相談コーナー
  • 労働基準監督署の窓口

相談内容(埃と二酸化炭素濃度)

①職場に尋常でない量の埃が堆積しており、重症度が最も高い気管支喘息の発病者が出るほど、就業環境が不衛生である

勤務先企業(人事ソフトで有名なワークスアプリケーションズ社)の就業部屋が、5年間ほとんど清掃されていない。 その部屋で3年弱働いた結果、重症度が最も高い気管支喘息と、あらゆる商業店舗に入店できないような強いハウスダストアレルギー・ダニアレルギーを発症した。

現在も口と鼻の両方を覆うタイプの医療用マスク(N95マスク)なしでは、勤務先企業に入室することさえできない(気管支喘息の発作が起きる)が、職場は未だ十分に清掃されていない。
喘息の重症度が高いことを理由に、医師から現時点での転職は禁じられている。労働基準監督署への労災請求も行ったが棄却され、勤務先企業には抜本的な改善が必要だという認識がない。

気管支喘息や重度アレルギーの患者でも働けるようワークスアプリケーションズ社に対応して貰いたいが、何か方法はないだろうか。

②職場内の二酸化炭素濃度が常時高く、慢性的に呼吸が苦しい

職場に入室すると喘息の発作が出るため、勤務中は口と鼻の両方を覆う医療用マスク(N95マスク)の着用を医師から義務付けられている。

だが、ワークスアプリケーションズ社内には、部屋の空調処理能力の2倍を超える数の従業員が働いており、二酸化炭素濃度は平均で1400ppmを超えている。(通常の企業は平均1000ppm未満)
そのため、職場では慢性的に酸欠であり、マスクをしていると常に呼吸が苦しい。職場内で30分以上会話をすることができず、参加人数の多い会議では、1時間会議室で座っているだけで意識が朦朧とする。職場は高層ビルの21階にあり、窓を開けての換気はできない
医師から現時点での転職を禁じられているのは、前述の通り。
勤務先企業に何とか改善して貰えないだろうか。

会社内での安全衛生の相談・改善を断念

行政機関への相談に先立ち、2017年6月頃から所属元企業(ワークスシステムズ社)と勤務先企業(ワークスアプリケーションズ社)の上司・東京本社の人事総務部・その関連部門と1対1もしくは1対2で面談を実施し、職場環境についての要望を口頭で伝えている。

だが、解決どころか勤務先の就業環境は日々悪化の一途を辿り、毎日が「出勤して8時間ひたすら耐えるだけ」の日々になっていった。
正社員雇用だったが一従業員として仕事の成果を上げられる状態では到底なく、人事考課も2〜3段階下がる有様。
在宅勤務は、ワークスアプリケーションズ社人事総務部から許可が下りなかった。(ワークスアプリケーションズ社には在宅勤務やリモートワークの制度がない)

転職したかったが、発症した気管支喘息の重症度が高く、レルベア200を含む3~4種類の薬を毎日用いても、病状が安定するまで数ヶ月を要した。転職で環境を大きく変化させると喘息が再び悪化する恐れがあったため、医師から転職を止められていた(いわゆるドクターストップ)。

勤務先企業で可能な限りの人に相談したが就業環境は十分に改善せず、2017年11月に入ると新人研修を終えた新卒社員が勤務先に多数配属されて呼吸がより一層苦しくなり、座って耐え続けることも限界に達した。

喘息発症後11ヶ月目に、社外での相談先を模索した。

会社の外で安全衛生の相談先を探す

当初、社外で労働相談を受け付けて貰えるところがどういう機関なのか全く分からなかったため、インターネットを検索したところ、下記の様なサイトがヒットした。

厚生労働省 総合労働相談コーナーのご案内
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html

「総合労働相談コーナー」とは、都道府県ごとにお役所内に用意された、労働者向けの相談窓口
労働局内もしくは労働基準監督署内に設置されており、働くことに付随する問題やトラブルについて、無料で相談を受け付けて貰える。主に平日朝9時~夕方17時までしか開いていないが、電話もしくは対面で相談を受け付けてくれ、女性の相談員も配置されている。

藁にもすがる思いで、勤務先の都道府県にある総合労働相談コーナーを利用させて頂くことにした。

なお、この時点では気付いていなかったが、総合労働相談コーナーは「労働局」に設置されたものと、「労働基準監督署」に設置されたものの2種類がある。

労働局は、労働基準監督署のいわば上司にあたり、労働基準監督署が現場で各企業の法令順守を指導する立場だとすると、労働局は労働基準監督署を監督・指導する立場。役割が異なるだけでなく、有する権限も異なっている。

私は偶然にも、労働局の総合労働相談コーナーを利用した。

労働局の総合労働相談コーナーで就業環境について相談する(相談第1回目)

出勤時間をずらし、午前10時半頃に総合労働相談コーナーへ。

部屋に入ってすぐの場所に横に長いカウンターがあり、カウンターを挟んで労働者と労働局の方が対面で話し合えるようになっていた。カウンターは2席ごとに板で仕切りがつけられており、相談中に提示した書類等が他の相談者の目に触れないよう配慮されている。
席は混んでもおらず、閑散としてもいない、という程良い雰囲気。

建物は古かったが、カウンターの奥は一般企業とよく似ており、年齢・性別様々な方がデスクを並べて仕事の真っ最中、といった雰囲気だった。
労働関連法の分厚い書籍が手近な本棚に並んでいたところだけが、一般の企業と違っていた。

私の訪問に気付いて出てきて下さった方に相談内容をかいつまんで伝えると、奥から初老の男性が出て来られた。「立派な会社にお勤めの親類」といった雰囲気で、頭が良く、話し上手で、信頼できそうな雰囲気があった。

なお、気管支喘息の発作が出る可能性があったので、マスクを着用したまま相談させて頂いた。

行政からのアドバイス:「会社の正式な窓口」に「文書」で要望を提出してみては

ワークスアプリケーションズ社の職場内の写真等をお見せしながら、相談内容を伝え、初老の男性の判断を仰ぐと、「会社宛に文書で要望を出し、文書で返答を貰ってみてはどうですか」とアドバイスを頂いた。
また、直属の上司ではなく、人事総務の問合せ窓口など「会社の正式な窓口に要望書を出した方がいい」とのことだった。

後から振り返ってみると、この時頂いたアドバイスは極めて的確だった。この時に「文書で」「人事総務部から」返答を貰うようご助言頂けていなければ、後に来る劇的な解決は起こり得なかっただろう。

労働局の窓口相談員さんに、陰ながら深く感謝。

勤務先の人事総務部宛に要望書を提出する

頂いたご助言を元に、人生初の要望書を作成。インターネットで要望書のテンプレートを検索し、要望書テンプレートと首っ引きで作成した。
気管支喘息の発症で年収が約200万円下がり、治療費でさえ生活に重くのしかかっていたので、要望書作成を社労士等の専門家に頼む余裕はなかった。

出来上がった要望書はお世辞にも分かりやすいものとは言えなかったが、ともかくも人事総務部の方と面談頂き要望書を提出、正式に受理頂いた。
その際、「空気環境測定結果の値も返答文書に盛り込んで欲しい」と口頭で依頼した。二酸化炭素濃度の値を正確に喘息の主治医に伝えるために頼んだのが、正確な数値が盛り込まれると客観性が増し医師や弁護士や行政機関の方がより判断しやすくなったため、今振り返るとお願いして良かったと思う。

提出後1ヵ月ほど経った2017年12月に、人事総務部から文書で返答が戻って来た。要望書はA4サイズ1枚しか提出しなかったが、返答文書はA4サイズ4枚程あった。
会社側の主張を交えつつ長々と回りくどく書いてあるものの、結論は「(お金がないから)要望には応じられない」といった内容だった。

代わりに、対応下さった人事総務部の方の英断で、私だけ別の階のフロアに自席を移して貰い、仕事中に息ができない問題は多少改善された。
と言っても、息苦しさが少しましになった程度で、30分以上の会話はできず、参加人数の多い会議には相変わらず参加できなかった。

備え付け空調の半数以上が破損している(まともに換気されていない)

同時期(2017年12月)に、勤務先フロアに備え付けられていた空調設備のうち過半数に異常が見つかり、空調本来の性能が発揮されていないことが明らかになった。

ビルの管理会社は「阪急阪神ビルマネジメント」(?)という阪急阪神ホールディングスの系列会社で、勤務先人事総務部が二酸化炭素濃度が高いことを報告しても「そんな苦情を申し立ててくるのは、数あるテナントの中で御社だけだ」と客を客とも思わないような対応を平気でしてきていたが、空調の破損台数の多さにようやく重い腰を上げた。
ワークスアプリケーションズ社の人事総務部と阪急阪神ビルマネジメントが連携して、空調の補修に着手することになった。

ちなみに、ビル空調が7台中4台破損していても、ビル会社に調査頂くまで、従業員は誰一人気付かなかった。私自身も全く気付かなかった。美しく近代的な外観の建物だったので、一層気付きにくかったのかもしれない。

窓の開かない気密性の高い建物において、空調設備は呼吸器疾患から従業員を守る要とも言える設備だが、原因の気づきにくさ、職場で従業員が身を守る難しさに身が震える思いがした。

労働局の総合労働相談コーナーで相談する(第2回目)

重症度の高い気管支喘息の影響で、12月から翌3月にかけて立て続けに計4回風邪を引き、喘息も一層悪化して、労働相談コーナーへ足を運ぶのも難しい状態が続いた。
3月中旬に労働基準監督署に申請していた労災請求が棄却され、寒さが和らぐ3月下旬になってようやく、総合労働相談コーナーに行ける体調に戻った。

風邪と喘息悪化を散々繰り返した後だったので、鼻と口をがっちりと覆う医療用マスク(N95マスク)を着けて訪問。

会社からの返答書類を持参し、再び労働局の労働相談コーナーに相談へ行く。
持ち込んだ資料は、

  • 要望書
  • 要望書に対する会社からの返答文書
  • 社内サイトの画面のコピー
    勤務先企業の空調設備の過半数が壊れており、事業所内の就業人数が建築基準を大きく上回っていることについて、勤務先が行なった内部調査の記録

今回は、30歳後半~40歳前半くらいの女性の方が出て来られた。真面目で、穏やかで、この方も信頼できそうに感じた。
私の説明を一通り聞き、提示した文書の一文一文に丁寧に目を通して下さった後、その女性は、

「これほど文書が揃っているなら、管轄の労働基準監督署に連絡を取り、労働基準監督署から直接対応頂いた方がいい」

と仰って下さった。各企業に対する具体的な対応は、労働局ではなく管轄の労働基準監督署から行うものらしい。その女性相談員の方が真摯に丁寧に対応下さったので、たらい回しにされている印象は受けなかった。

労働局と労働基準監督署は場所が離れており、電車の乗り継ぎも悪い。勤務時間の関係で本日労働基準監督署を訪問することは難しいので翌々日訪問すると告げると、

「労働基準監督署にはこちら(労働局)からも連絡しておきます」

と言い添えて下さった。
提示した資料は、私の同意を得た上で、労働局にてコピー・保管された。


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労働基準監督署・労働局に職場環境(埃・二酸化炭素濃度)の問題を相談する (2)

労働基準監督署・労働局に職場環境(埃・二酸化炭素濃度)の問題を相談する (1)の続き。

労働基準監督署の窓口で相談する

労働局の労働相談コーナーで相談した翌々日、改めて勤務先を管轄する労働基準監督署へ訪問。この日も分厚いN95マスクを着用して出向いた。労働基準監督署は労災請求と聴き取り調査の際既にお世話になっていたので、所在地や室内の雰囲気も分かっており、訪問にはさほど不安を感じなかった。

労働基準監督署も、室内に入ると長いカウンターがあり、そこで職員と労働者が相談できるようになっている。カウンター越しに職員の方に声を掛け、事情を説明すると、30歳台くらいの若い男性の監督官が出て来られた。

怪訝そうな顔で出て来られたので少し不安を感じたが、ともかくも男性監督官に労働局で行った説明を一通り行った。労働局から労働基準監督署へも連絡が既に届いており、N95マスク越しに長々と話さずに済んだのは有難かった。

監督官曰く、「法律の範囲内であれば企業に改善を促すことができる」そうで、①の埃については無理だが、②の二酸化炭素濃度については改善を促すことが可能、とのことだった。

補足すると、企業は2ヶ月に1回、職場内の空気に従業員の健康を害するような異常がないか測定することが義務付けられている。
私の勤務先は

  1. ① 埃(浮遊粉塵)の量は、法令(事務所衛生基準規則5条↓)の定める基準値(0.15mg/m3)を下回っていた
  2. ② 二酸化炭素濃度は、基準値1000ppmに対し測定値が平均1400ppm・最大1700ppm超であり、測定値が基準値を大幅に上回っていた。かつ、過去1年間の測定で、殆ど毎回基準値を超えていた

ので、②について労働基準監督署から会社に対し改善を促すことができる、と判断されたようだ。

事務所衛生基準規則 第二章 事務室の環境管理
https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-2/hor1-2-36-2-0.htm

その際、「この情報の出所が貴方だと勤務先にばれてしまい、不利益を被ることがあるかもしれないが問題ないか」と確認された。
職場環境を改善頂かないことには勤務を続けられないので、「仕方がない」と答えたように記憶している。

運悪く私が相談に訪れたのが3月下旬で新しい年度に切り替わる直前だったため、労働基準監督署からの対応は、新年度の4月になるかもしれないとのこと。こちらについては、対応頂けるならと快諾した。

労働局と同様、提出した書類は労働基準監督署にてコピー・保管頂いた。監督官からは窓口用と書かれたお名刺を頂戴し、ご挨拶して部屋を後にした。

勤務先企業に労働基準監督署の臨検と行政指導が入る

行政機関が新年度に入った4月中旬、労働基準監督署から私の携帯電話宛に着信があった。

折り返しお電話してみると、3月下旬に労働基準監督署で相談に乗って下さった労働基準監督官の後任の監督官からで、あの後勤務先に対しどのような対応を行ったかを教えて下さった。

労働基準監督署と相談した日から数えて13日目に、朝10時から12時の時間帯で、労働基準監督署の監督官は勤務先企業を訪問下さっていた。(いわゆる臨検監督)

勤務先の人事総務部に過去3年分の空気環境測定の結果の提出を求め、勤務先の就業環境を目視で確認下さった結果、従業員1人あたり10立方メートル以上の気積(事務所衛生基準規則第2条参照↓)が確保されておらず、改善の必要ありと判断された。
そして労働基準監督官は、勤務先に対し指導書(いわゆる行政指導)を出して下さった。

事務所衛生基準規則 第二章 事務室の環境管理
(気積)
第二条 事業者は、労働者を常時就業させる室(以下「室」という。)の気積を、設備の占める容積及び床面から四メートルをこえる高さにある空間を除き、労働者一人について、十立方メートル以上としなければならない。

「気積」とは、「室内の空気の量」を表す建築用語で、

床面積×高さ-家具の体積=気積

で計算される。
従業員が常時勤務する部屋は、従業員1人あたり10㎥以上の空気を確保しなければいけないと法令↑で定められている

当時の勤務先は「密集」という言葉が相応しいくらい1部屋に人が詰め込まれており、従業員1人あたり5~6㎥くらいしか、気積が確保されていなかったのではないかと思う..。
離席しようと椅子を後ろに下げれば真後ろの方の椅子に当たり、デスクで仕事中に腕や肘が隣の席の人に当たることが毎日あるといった、いわゆる「三密」の条件をほぼ完全に満たすレベルの人口密度だった。

法令で定めた基準が満たされていない場合に、労働基準監督署は企業に「行政指導」という形で改善を求めることができる。

労基署の指導是正勧告は行政指導の一種で、行政指導自体には強制力はない。
だが、指導や是正勧告を無視し続けると、罰金や書類送検など、より重い罰則が課される可能性がある。

勤務先から改善状況について5月末に改めて報告を受けます、とのことだったので、対応を待つことに。

約2ヶ月で強制的に職場環境改善

その後勤務先は、会議室を3部屋潰して従業員が働く部屋に作り変え、各部屋に全従業員を偏りなく配置することで、従業員1人あたり10立方メートル以上の気積を何とか確保した。

加えて、勤務先企業はビル管理会社と相談の上、壊れていた4台の空調設備を修理
そうしてようやく、室内の二酸化炭素濃度が法令の定める基準値(1000ppm)を下回るようになった。

この間、約2ヶ月かかった。

だがそれ以上に、会議室を潰し従業員の部屋へと作り替える費用や、ビル管理会社とのやりとりの手間、空調の修繕にかかる費用、行政機関の信用低下などを考えると、最低限の法令を遵守していなかった勤務先企業が被った金銭的・社会的ダメージは、一従業員が予想もしていなかったほど大きなものになった。

労働基準監督署から指導を受けたことについて、勤務先企業は安全衛生委員会の議事録を9ヶ月以上公開せず、従業員への説明を避けた。(実はこれも法令違反なので、後日別途臨検&行政指導を受けることになった..)
が、就業先が行政指導を受けるなど滅多にあることではないし、「人の口に戸は立てられぬ」の言葉通り、どこからか事態を知った従業員が別の従業員へと話して、少しずつ知れ渡っていた。

労働基準監督署の監督官から対応終了の報告を受ける

7月中旬頃、労働基準監督署の監督官から私用携帯宛に改めてお電話があった。勤務先から二酸化炭素濃度が基準を下回ったと報告があり、これをもって対応を終了します、とのご報告だった。

この頃、営業課員やコンサルタントが社内に多い月曜日はまだ息苦しかったが、それ以外の曜日は何とか耐えられる程度に息苦しさは弱まっていた。「対応頂いたお陰で身体が楽になり、何とか勤務を続けられそうです」とお伝えし、監督官に丁重にお礼を述べて電話を置いた。

労働相談コーナー利用後、勤務先企業での待遇は悪くなったか

行政指導に先立って、主治医から「ほぼ100%勤務先の環境が原因」と断言されるような気管支喘息を発症しており、労災請求を出す出さないで勤務先企業と一悶着あったため、勤務先企業との関係性は既に十分に悪化していた。

その1年後に、勤務先企業が行政指導を受けるきっかけを結果的に私が作ってしまったことになったが、勤務先企業での待遇は既に十分悪かったので、待遇も関係性もこれ以上悪くなりようがなかった、というのが正直なところだと思う。
表立って呼び出しを食らったり、叱責を受けたり、明らかに社内評価を下げられたり、給与が下がったりということはなかった。

上司や同僚の態度は、労働相談コーナーを利用した後も、勤務先企業に指導が出た後も、さほど変わらなかった。上司には事前に何度も相談しており、同僚には普段から気管支喘息やアレルギーや周辺事情について話していたので、彼ら(彼女ら)が十分な情報を持った状態で事が起きたのが良かったのかもしれない。

上司や同僚に大なり小なり迷惑がかかっただろうと思うが、今も昔も変わらず、雑談したり、昼食を共にしたり、飲みに行ったりしてくれている。

おわりに ~「二酸化炭素濃度」は解決し、「埃」は未解決のまま終結~

結果として、行政に相談した「二酸化炭素濃度」と「埃」のうち、二酸化炭素濃度については抜本的かつ不可逆的な解決が行われた。従業員が一人で対応を続けていたとしても、これほどの解決は望めなかっただろうと思う。

この点では、労働局と労働基準監督署の功績は非常に大きかった。1人の従業員のために行政機関がここまで動いてくれるとは正直予想もしていなかったので、現場で対応下さった労働局・労働基準監督署の方々には、感謝の言葉しかない。

反面、気管支喘息の原因となった「埃」については、労働局・労働基準監督署という2つの行政機関をもってしても、未解決のまま残されてしまった。
明暗を分けたのは、行政機関は法律的な裏付けなしには動くことができない、という行政ならではの縛りである。

一般にはあまり知られていないことだと思うが、行政機関は行政法に定められた範囲内でしか動くことができない。株式会社等の組織に法令違反があれば、違反した部分に対して指摘し改善を求めることができるが、法令違反がなければ、行政機関は企業に改善を求めることができない

法令による裏付けがない場合、医学的にどれほど人体に悪影響があろうと、行政機関では対応ができないようだ。堆積粉塵は高い濃度でアレルゲン物質を含み、病原菌の温床にもなる。皮膚を通じてアレルギーの発症を促し、皮膚炎・鼻炎・結膜炎・喘息発症の原因にもなることが医学的に明らかになっているが、行政機関は医学的な根拠を元に動くわけではない。

今回の「埃」の問題の場合、空気中に舞っている浮遊粉塵については0.15mg/m3以下という規制があったが、床や机に積もった堆積粉塵については、法令上の規制が見つからなかった。アレルギー体質の獲得が皮膚からの感作を通じて起きる(経皮感作)のは近年の研究で明らかになっているが、埃についてもアレルギーについても、法令は未だ追いついていないように思える。
勤務先企業は、浮遊粉塵の基準(0.15mg/m3以下)はクリアしており、残念ながら埃については手出しできなかった。