漫画「残酷な神が支配する」(萩尾望都 著) の読書感想文

子どもへの性的虐待をテーマにした萩尾望都さんの漫画です。

■「残酷な神が支配する」のあらすじ

アメリカのボストンで最愛の母サンドラと幸せに暮らしていた少年ジェルミは、母の再婚を機に、イギリスへ移り住みます。
そこで新しい義父グレッグや血のつながらない義兄イアンらと、義父の広い屋敷で共に暮らすことになるのですが、夜ごと義父から酷い暴力と性的虐待を受ける地獄の日々が始まります…。

■「残酷な神が支配する」を読んだ感想

※ストーリーのネタばれを含みます。問題ない方のみ、続きをお読みください。

「シングルマザーが再婚した後、義理の父によって子どもが酷い目に遭う」という構図は、近年ニュースを騒がせている日本の児童虐待とよく似ています。そうした子供の中には、義父による肉体的・精神的な暴力で次第に精神を病み、自殺に追い込まれる子もいると聞きます。
一人の大人として、やり切れません。

「残酷な神が支配する」が連載されたのは1992年と今より20年以上前で、シングルマザーも離婚も再婚も、日本ではまだ一般的ではなかった頃です。その時既に、作者萩尾望都さんはこうした視点をお持ちだったのかと思うと、単なる少女漫画家の枠に収まり切らない萩尾さんの底力が垣間見えるような気がしました。

ストーリーの前半は、主人公ジェルミにあまりに救いがなさすぎるので、読んでいて大変辛くなります。虐待している人、虐待に気づいてみて見ぬふりをする人、虐待に気づかない人、そんな周りの人全てが、ジェルミを歪めた加害者に思え、「誰かジェルミを助けてあげて」という読者の祈りも空しく、物語は加速していきます。
読み進めるだけでも苦しいのに、それでも続きが気になって、読まずにはいられない。相変わらず、萩尾望都さんの作品の持つ力は凄いです。

こうしたテーマで人を引き込んでしまうストーリーを描ける漫画家さんは、本当に希少ですね。萩尾望都さんの本は、どんなテーマでもとにかく一度は手に取って読んでみてしまうんですが、この本もそうした1冊でした。

ただ、本作は外国の裕福な一家庭が舞台ではありますが、義父や実母の立ち位置等現代日本と似通いすぎていて怖いくらいに感じる時がありますので、現実世界で何らかの被害に遭われたことのある方は、本作をお読みにならない方がいいかもしれません。
幸いこうした事件に縁はないが性的虐待の被害者の心情を理解したい、と考えておられる方にこそ、本作をおすすめできるのではないかと思います。

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