「やさしい人物画–人体構造から表現方法まで」(A・ルーミス(著)) 感想文など

多少の骨折りと時間を割いてでも、リアリティのある人物画を描きたい方におすすめの本。

「やさしい人物画」の説明

美術で食べていけるかどうかで悩んでいる、若い美術家のために書かれた本。

仕事としての美術の考え方、人物のプロポーションやバランスの良い組み立て方、骨や筋肉は人体のどのような場所にどう存在し人体の外側から見るとどう見えるか、人体に光を当てた時の陰影のでき方、いきいきと動きのある人物を描くにはどうしたらいいか、手や頭部などの細部はどのように描けば良いかなど、人物画を描くための基本と考え方が、50枚を軽く超える人物デッサン・人物クロッキーとともに描かれている。

掲載されている人物デッサンに日本人のモデルはおらず、西欧の顔立ち・体つきをされたモデルしかいない。頭部のみのデッサンや着衣のデッサンも掲載されているが、数が少ないため、デッサンの基本である裸体像を正確に描くコツをつかむための本という位置付けの本だと思う。

1976/12、マール社出版。第87刷。
全198ページ。1944円(税込)。

「やさしい人物画」を読んだ感想

1章・2章・3章が、この本で最も重要な章だと感じた。1章が全身の捉え方や動き・パース、2章が骨と筋肉、3章が陰影についてまとめられている。

この3つの章は、初めて人物画に取り組まれる方には、とっつきにくく感じるかもしれない。人体を八頭身に分け「上から三頭身目がへそで、四頭身目が股」などのプロモーションから、身体の表面に表れる骨や肉づき、骨格の動きなど、人体を観察し現れる事実を細かく把握し、覚えるべき事柄の多い章が続くからである。
だが、これらの章にどこまで真面目に取り組めるかが、今後の人物画のクオリティが決まるように感じている。

「紙を用意して写してみなさい」と著者が檄を飛ばしているように、眺めるだけでマスターできるような本ではないことは確かだ。何度も骨格や筋肉やデッサンを真似して描いてみて、手で頭で繰り返し「身につけていく」タイプの本だ。

そして掲載されている著者の鉛筆画が、肉感的なのに精緻で美しいところもお気に入り。プロポーションなどの人体の比率が細部に至るまで正確で、人間の全体のバランスが取れているのに、全身の輪郭を作り出している線や皮膚の陰の塗り方などから、女性の持つ柔らかさや色気を感じる。

2007年6月時点で第87刷というちょっとびっくりするような増刷回数も、この書籍の技術力の高さと内容の濃さを考えると、特に何の違和感もない。

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