村上春樹さんのデビュー作「風の歌を聴け」を読む

昨今ノーベル賞候補に挙がっている村上春樹さんのデビュー作

「風の歌を聴け」の説明

大学で生物を学んでいる主人公「僕」が過ごした、21才の夏のお話です。
「鼠」という名の金持ちな、でも金持ちを心の底から嫌っている青年とつるみ、「ジェイズバー」で恐ろしい量のフライドポテトを食べ、ビールを飲み、そして一人の女の子と出会います。

「風の歌を聴け」の読書感想文 (という名の純文学的読み解き)

※小説のネタばれを含みます。ネタばれしても問題無い方のみお読みください。

「風の歌を聴け」は春樹さんのデビュー作だそうですが、紛うことなく、この本は村上春樹さんの作品ですね。文の読みやすさ、文体の軽さと柔らかさ、そして小説全体の底深くに流れるテーマまで、本全体から春樹さんらしさを感じます。

タイトルの「風の歌を聴け」という言葉、「風」が象徴するのは通り過ぎるともう二度と戻らないもの、ではないでしょうか。

21歳の夏も、「僕」が出会いそして別れた女の子も、人の長い人生の中で出会うのは一度きり。「袖触れ合うのも多少の縁」という言葉がありますが、縁があるのも僅かな時間で、通り過ぎてしまえばもう二度と戻ることはないのだ、ということを、この本の読後9年目にしてようやく分かりました。

そしてそれが私たちの生きる世界の純然たる事実であることに気づいた時、この本はまさに「文学」を冠するに相応しい本だと感じました。

厚さ1cmに満たないほど薄い文庫本ですが、村上春樹さんの著書を初めて読まれる方におすすめします。私もこの本が第1冊目でした。大学の夏期特別講義で島根大学の教授が来られ、授業で「風の歌を聴け」を取り上げて下さったのが、この本との出会いです。私にとっては無上の僥倖でした。