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「やさしい顔と手の描き方(drawing head and hands)」 A・ルーミス (著)

人物画の頭部と手を、より肉感的に、リアリティを込めて描きたい方におすすめ。

「やさしい顔と手の描き方」の説明

人物デッサンの中でも特にデッサン力の要求される頭部と手のデッサンの手法について、集中的に取り上げている本

本書の著者であり、卓越した作画技術を持つ美術家でもあるルーミス氏は、前作「やさしい人物画–人体構造から表現方法まで」でも頭部や手の作画を含めた質の高い講義を疲労して下さったが、今回の本は頭部と手についてのみ深く掘り下げ、バランスのとり方や描画のポイントを説明下さっている。

「やさしい人物画」同様、こちらの書籍にも日本人モデルは描かれておらず、西洋風モデルの人物デッサンのみが掲載されている。

マール社出版。定価1800円。
1977年初版発行、1995年第40刷発行。

「やさしい顔と手の描き方」を読んだ感想

前作「やさしい人物画–人体構造から表現方法まで」が良本だったので、前作を読んだあと、こちらの本も購入した。

前作でもそうだったが、ルーミス氏は著作の中で美術家の心構えやデッサンに取り組む際の考え方に言及して下さっている点が嬉しい。

今回の「やさしい顔と手の描き方」の冒頭でも、「なぜ頭部を描きたいのか」について、自分の中を深く見つめ返してみるよう示唆される。
頭部や手は、骨格や筋肉が複雑に入り組んでいるため、(ピカソとレンブラントを除く)殆どの方は上達までに長い忍耐と努力を必要とする部位でもある。自分の中にある「何故描きたいのか」という理由に気付き、折に触れその理由を思い返すことが、上達に近づく秘訣なのだろう。

頭部に関してはとにかく全体のバランスと骨格を重視し、目鼻などのパーツを頭部に組み立てる技術が大事のようなので、作中のモデル画を模写しつつ、じっくり腰を据えて身につけていこうと思っている。

正直なところ、ルーミス氏ほど正確で美しい人体デッサンを描ける方は少ないと思っているので、当面の間、ルーミス氏の指導に一字一句従ってみるつもりだ。

「きたのじゅんこ 水彩色鉛筆画入門 魔法のテクニック」(きたのじゅんこ 著)

きたのじゅんこさんご自身が、きたのさん風の幻想的な描き方を教えて下さる(!)本です。

「水彩色鉛筆画入門 魔法のテクニック」の説明

きたのじゅんこさんは、子供や天使をモチーフに、柔らかで幻想的な絵を描かれる人気画家さんです。

この本は水彩色鉛筆の種類や紙の選び方といった水彩色鉛筆の基本から、ハッチング(線を重ねる)やパウダリング(色鉛筆を削って粉でぼかす)など水彩色鉛筆でよく使わられる絵画の技法に加え、きたのさんが実際に描かれる際の作業手順や、あの幻想的で美しい絵の描き方までを伝授して下さいます。

本書の後半で、学んだことの総まとめとして、下書きから仕上げまできたのじゅんこさんが描く際の工程を、1つ1つ写真付きで解説されています。

「水彩色鉛筆画入門 魔法のテクニック」の感想

私の一番の驚きは、「きたのさん、水彩色鉛筆使われてらっしゃるんだ!」という点でした(笑) 
きたのさんの絵は繊細で、画面の細部に至るまで非常に丁寧に仕上げられており、水彩特有の粗さや色ムラとは無縁のように思っていたので、本当に驚きました。

本を読み進めてみると、水彩の特徴を効果的に用いつつも、作業工程や描き方がとても丁寧です。主に画面の下塗りに水彩を用い、色鉛筆の特性を生かして仕上げをされるので、キャンバス全体の統一感も出ますし、細部も細かく描き込み仕上げることができるようです。

また基本技法を指導して下さっているところで、ごく小さな絵を下書きから仕上げまで指導してくださっている箇所があるのですが、どんな小さな絵でも、きたのさんの絵はきたのさん風でした(笑) セピア色のろうそくや蒼く輝く水晶など、雰囲気が柔らかく穏やかで、絵全体からあたたかみを感じます。

大きな紙での大作を描くのは私達素人には難しく感じますが、手のひらサイズの紙にろうそくの絵なら、何だか描けそうな気がしませんか? こんな感じで描いてみたい、そんな気にさせてくれる本でした。

「旅先で楽しむ3段階早描きスケッチ」(佐々木清 著)

水彩の特徴を生かし、透明感のある水彩画を30分で描き上げるコツが身につく本だった。

「旅先で楽しむ3段階早描きスケッチ」の説明

透明水彩・鉛筆・木炭を使い、下絵から着彩終了までわずか30分(!)で仕上げてしまうという、画期的な水彩画の描き方が紹介されている本。

下絵5分→陰影5分→着彩20分の各作業工程が、豊富な写真と著者直筆の水彩画を用いて解説されている。スケッチブックの選び方など、使用画材に関しても丁寧に言及されていた。

「旅先で楽しむ3段階早描きスケッチ」の主観的学び

・下絵:
  大枠・骨組みから描く、細部は後回し
  線は曲がっている方が味がある
  消しゴムは使わない

・陰影:
  木炭と擦筆で一気に陰影をつける

・着彩:
  時間が取れる時に。ホテルでゆっくり仕上げるのも良  
  色は先に混ぜ合わせておく。水を刷いた後、一度に複数の色を乗せていく
  2色以上を混ぜ合わせると、色彩が落ち着く
  水を刷く → 数色を一度に画面全体に乗せる → 細部に色を乗せる

「旅先で楽しむ3段階早描きスケッチ」を読んだ感想

この本を読み始めたのは、早描きがしたかったからというより、掲載されていた水彩画がみずみずしく美しかったからだ。
水彩は数ある画材の中でも扱いが難しく、自在に操るのに技術を要するので、水彩画の書物を選ぶ時は説明の上手さや中身よりも、表紙や中の「絵が美しいか」を基準に選んでいる(笑)

だが、美しい水彩画を眺めながら楽しく読み進めるうちに、描くスピードを早めるコツも学ぶことができた。

絵を、特に水彩画のような準備や手順に手間のかかる絵を、短時間で描き上げるには、押さえておくべきポイントがあるようだ。
「細部にこだわらず画面全体の構成を優先させる」「太めの木炭で陰影をつける」「画面全体に水を刷き、複数の色を同時に乗せていく」など、「なるほど!」と思わず唸る知恵がこの本には溢れていた。

特に興味深かったのは、複数の色を同時にキャンバスに乗せる方が、色彩のグラデーションが美しくなるという記述。
掲載されている著者の絵がその事実を裏付けており、黄色(壁)・紫(屋根)・茶(大地)・緑(木々)が調和を乱すことなく、穏やかなグラデーションになっているのが印象的だった。

本業の仕事を持ちながらも絵を描き続けたい方にとって、描く時間を日々捻出するのは、難しいことだと痛感している。が、その難問に対する解の1つが、こうした本になるのではないか、と感じた。

絵のクオリティも描く楽しさも手放さず、かつ仕事や家庭と両立されたい方にとっては、役立つアドバイスを与えてくれる良書だと思う。

「人体デッサン」(視覚デザイン研究所) 感想文など

古今東西の先達芸術家のデッサンを見比べながら、人体デッサンの基礎を学ぶ本だった。

「人体デッサン」の説明

人物デッサンの描き方を指導する本だが、著名な画家の人物クロッキー(ラフスケッチ)が多数掲載されている。

ざっと例を挙げると、ミケランジェロ、ルノワール、レオナルド・ダ・ヴィンチ、クリムト、ドガ、ルーベンス、ドーミエ、黒田清輝、岸田劉生などなど。
ページを開くと、殆どどのページにも、こうした古典的大家のラフスケッチが掲載されている。1つ1つの絵は小さいものが多いが、1ページに数枚ずつという、多数の絵が掲載されている。

また、人体をより正確に描くために押さえておくべきコツが、「全身画」と「身体の部位」の大きく2章に分けて解説されている。

視覚デザイン研究所編集。定価2000円。
2008年で第27刷。

「人体デッサン」を読んだ感想

人物画のデッサン力を向上させるべく、図書館で人物画デッサンの本を端から順に借りてきて読んでいた時期があるが、その際デッサンとクロッキーの実例が豊富で、図書館本を返却後購入に踏み切った本がこの本だ。

ルノワールなど芸術の大家について、完成した作品は見ることがあっても、構想段階の下書きやラフ画、走り書きのクロッキーは、普段あまり目にする機会がない。この書籍は、人物画の習作段階のスケッチが、1ページに1~10点ずつ掲載されている。

掲載されている作家の数も、軽く20人を超える。これほど多様な作家のクロッキーをまとめて眺めていると、作家ごとの力量や描き方の癖などがよく分かる。

例えばミケランジェロは、習作とは思えないほど精緻で完成度の高いクロッキーを描いていたようだ。伏し目がちな瞳や、頬や鼻筋に落ちる影の細やかさを見ていると、習作にしておくのが勿体ないくらいの絵だった。

反面ルノワールやクリムトは、あまり正確とは言えないデッサンも見受けられ、まだ未熟な読み手は非常に勇気づけられた(笑) レオナルド・ダ・ヴィンチは非常に絵が上手い印象があったのだが、人物画の習作を見ると上手なものとそうではないものが入り混じっているなど、面白い発見があった。

技法に関しても、数多く言及されている。私が特に重宝しているのは身体の部位ごとに作画のポイントを述べた章
頭部なら頭部の作画ポイントが説明されたあと、古今東西の頭部デッサン・作品を見比べながら、自分の作画方法をチェックすることができるよう、ページに工夫が凝らされていた。

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「やさしい人物画–人体構造から表現方法まで」(A・ルーミス(著)) 感想文など

多少の骨折りと時間を割いてでも、リアリティのある人物画を描きたい方におすすめの本。

「やさしい人物画」の説明

美術で食べていけるかどうかで悩んでいる、若い美術家のために書かれた本。

仕事としての美術の考え方、人物のプロポーションやバランスの良い組み立て方、骨や筋肉は人体のどのような場所にどう存在し人体の外側から見るとどう見えるか、人体に光を当てた時の陰影のでき方、いきいきと動きのある人物を描くにはどうしたらいいか、手や頭部などの細部はどのように描けば良いかなど、人物画を描くための基本と考え方が、50枚を軽く超える人物デッサン・人物クロッキーとともに描かれている。

掲載されている人物デッサンに日本人のモデルはおらず、西欧の顔立ち・体つきをされたモデルしかいない。頭部のみのデッサンや着衣のデッサンも掲載されているが、数が少ないため、デッサンの基本である裸体像を正確に描くコツをつかむための本という位置付けの本だと思う。

1976/12、マール社出版。第87刷。
全198ページ。1944円(税込)。

「やさしい人物画」を読んだ感想

1章・2章・3章が、この本で最も重要な章だと感じた。1章が全身の捉え方や動き・パース、2章が骨と筋肉、3章が陰影についてまとめられている。

この3つの章は、初めて人物画に取り組まれる方には、とっつきにくく感じるかもしれない。人体を八頭身に分け「上から三頭身目がへそで、四頭身目が股」などのプロモーションから、身体の表面に表れる骨や肉づき、骨格の動きなど、人体を観察し現れる事実を細かく把握し、覚えるべき事柄の多い章が続くからである。
だが、これらの章にどこまで真面目に取り組めるかが、今後の人物画のクオリティが決まるように感じている。

「紙を用意して写してみなさい」と著者が檄を飛ばしているように、眺めるだけでマスターできるような本ではないことは確かだ。何度も骨格や筋肉やデッサンを真似して描いてみて、手で頭で繰り返し「身につけていく」タイプの本だ。

そして掲載されている著者の鉛筆画が、肉感的なのに精緻で美しいところもお気に入り。プロポーションなどの人体の比率が細部に至るまで正確で、人間の全体のバランスが取れているのに、全身の輪郭を作り出している線や皮膚の陰の塗り方などから、女性の持つ柔らかさや色気を感じる。

2007年6月時点で第87刷というちょっとびっくりするような増刷回数も、この書籍の技術力の高さと内容の濃さを考えると、特に何の違和感もない。

「デッサンアート (入門シリーズ) 」(フォーラム11)

市販の静物画デッサン本の中では、最高ランクのクオリティを誇る本。本気でデッサンに取り組まれた方の技術力を、心ゆくまで堪能できる。

「デッサンアート (入門シリーズ) 」の説明

東京芸術大学の方の描かれたデッサンを参考にしつつ、鉛筆や木炭でのデッサンの考え方を学ぶ本。

モチーフの中心線とアウトラインを見つけて描くことや、光を整理して明暗を組み立てること、ガラス・金属等の質感の違いの表現など、テーマごとに美しい鉛筆・木炭デッサンの絵と解説が書かれています。

「デッサンアート (入門シリーズ) 」の読書感想文

とにかく、クオリティが高い
本のタイトルには「入門シリーズ」と銘打ってあるが、「このクオリティで入門なら、上級シリーズはレンブラントが読むんだろうか」と思わずにはいられないほど、デッサン1枚1枚のクオリティが高く、「市販品でもこんな本があるのか」と読んだ当初は相当驚いた。

解説付きで添えられている鉛筆デッサンが、素敵でつい見入ってしまう。さらっと描かれているように思える椅子も、形や質感が正確に捉えられているだけでなく、光源や光の量まで計算されているので、モチーフが光を受け輝いているように見える。

本格的に鉛筆デッサン・木炭デッサンを修めた方のレベルの高さが、よくわかる1冊だと思う。本物のデッサンを身につけたい方は、是非一度眺めてみて欲しい。このブログに載せている私の拙い絵を何枚か見るより、この本の表紙を飾っているタマネギのデッサンを凝視し、1本1本の線の繊細さや色の濃淡のつけ方、表面の皮の薄くてパリッとした質感などをどのように表現されているかを研究頂く方が、デッサンが上達するだろうと思う(笑)

扱われている題材は静物が多いが、指導下さっている内容も勿論超ハイレベルなので、静物画から人物画まで、デッサンを学ばれている方ならどなたがお読みになっても、新たな学びが見つかると思う。

「はじめてみよう 水彩スケッチ ― 観察のコツと見せかたのテクニック」岩沢一郎, 視覚デザイン研究所編集室

水彩を水彩ならではの透明感や滲みを生かして描きたい、とお考えの方におすすめです。

主観的学び

・水彩画基本の流れ
 1.明るい面積の広い部分をウォッシュで塗って下地作り
 2.物にできる陰を塗る
  陰を塗ると絵が立体的に。
 3.細部を書き込む
  色が濃かったり描きすぎたりすると説明的になり雰囲気が壊れる
 水彩画の基本の流れを間違えると、めりはりのない絵になる

・画面を整理(ごちゃごちゃさせない)
 下絵の段階で簡略化する
 色を揃えて、色数を抑える

ウォッシュ
 たっぷりの水で溶いて均一に塗る。絵具を途切れさせないように。
 一度塗ったところを重ねて塗り、一定の色で塗れているようにすると美しい
  →下地。透明感のある仕上がり。

ウェットインウェット
 ウェットインウェットで作られた滲んだ色は、水彩ならではの美しさ。
 ウェットインウェットはあらかじめ水で湿らせた紙の上に絵具を乗せ、滲みを作る手法。水で湿らせているため色が均一に広がらず、色彩の美しいグラデーションができる。

にじみ
 一色目を塗っておいて、乾かないうちに、上から別の色を置く。
 紙の濡れ具合をどこまで把握できるかにかかっている

・ため塗り
 絵具をためる時間の長さで濃さを調整

たらしこみ
 先に塗った色が乾かないうちに、別の色を落とす。
 画面に自然なグラデーションができる

・混色と重色
 3~5色。2色では済まない(笑)

・ストローク
 上級者向け技法。
 筆の跡をキャンバスに残す。
 地面・水面などの平面を表現するのが基本
 手首や腕全体で、勢いで描く
 風や動きを感じさせる絵に

拭き取り
 ティッシュ、ガーゼ、筆、スポンジなど
 塗ったあと時間を置いてからティッシュで軽く押さえると色ムラができ、 やわらかなグラデーションに

・洗い出し
 明るくしたい部分を筆でこすり、ティッシュで拭き取る
 狭い面に有効

・削り出し
 カッターナイフでキャンバスを削る

・仕上げ
 練りゴムで汚れた画面や余分な下絵の線を消す
 絵が一段明るくなる

「はじめてみよう 水彩スケッチ」の読書感想文

数ある水彩技法の本の中でも、掲載されている水彩画が群を抜いて美しかったので読み始めました。

水彩画の中の水彩画、といった印象です。油絵具・パステル・色鉛筆…数ある描画画材の中でも水彩絵具は最も難しいので、出版されている技法書のレベルの差も激しいのですが、珍しく良い本を引き当てました。

この本の著者の岩澤さんは、基本デッサンの上に滲みやたらしこみを多用して重色を作られる方のようで、画面のあちこちに美しい色のグラデーションが見られます。やはり、水彩画はこうでないといけませんね(笑)

正確なデッサン力はこの本の外で身につける必要があるかとは思いますが、水彩特有の技法を学び、美しい絵を作るという点に関しては、学びの多い本ではないかと思います。
ウォッシュやウェットインウェットなどの基本技法も絵を多用して説明してくださっているので、基本を確認する書としても非常に有効です。