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漫画「はじめちゃんが一番!」(渡辺多恵子 著) あらすじと読書感想文など

「風光る」で有名な漫画家渡辺多恵子さんの、初期の作品。

「はじめちゃんが一番!」のあらすじ

2歳の時生まれた弟が5つ子(!)だったため、幼くして否応なく自立させられ、17歳で家事全般と節約に精通してしまった女の子岡野はじめこと「はじめちゃん」。

芸能事務所にスカウトされ、家計を助けるためにアイドルになった弟達を通じて、はじめちゃんは超人気2人組アイドルグループ”we”の「瑞希」に恋をしてしまいます。ですが、もう一人の片割れ「江藤亮」が何かとはじめちゃんの恋路を妨げてしまい…

「はじめちゃんが一番!」の読書感想文

絵もストーリーも、とにかくかわいらしい漫画です。

女の子の視点から描かれた恋愛漫画ですが、楽しくてほのぼの読めるところがいいですね。漫画全体がどたばたしていてストーリーに勢いがあるのは、間違いなくはじめちゃんと5つ子君達の明るくはつらつとした性格によるものだと思います(笑) 

全15巻もあるのですが、自宅の漫画や小説を整理する際「はじめちゃんが一番!」は毎回生存競争に生き残ってしまうほど、お気に入りの漫画でした。
残念ながら器量があまり良くなく、貧乏でおしゃれも出来ず、弟のサポートと家事で学業の時間さえ十分に取れない、という無い無い尽くしのはじめちゃんですが、貧乏な生活で培ったバイタリティであらゆる苦難をものともせず乗り越えてしまうので、読むたびにこちらまで元気になります(笑)

少女漫画には珍しく、女の子の美人は少なく、男性の美人はたくさん出てきてしまうのは、アイドルという特殊な世界ゆえでしょうか。個人的に、男女とも美形ばかりが出てくる学園モノ等を読むと「ちょっと嘘臭いなあ..」と思ってしまう人間なので、無理な設定が少なく嘘臭さなしに楽しめる漫画である点も良かったです。

「はじめちゃんが一番!」の番外編について

「はじめちゃんが一番!」には、番外編がいくつか存在します。今までは別々の本に分かれて出版・掲載されていましたが、文庫版が出版された際、ようやく1冊の本に収録されましたので、細々と探されていた方には嬉しい1冊になっています。

「we」の2人が漫画内で主演した映画「雨に似ている」や、イラスト集に掲載されていた「はじめ&亮のはじめてのデート」、そしてweの2人の小学生の頃の話「we are」などが収録されています。

「BLACK JACK」 (手塚治虫著) の読書感想文

医師免許を持つ漫画家、手塚治虫さんの不朽の名作。今読んでも普通に楽しめるどころか、熱中してどんどん読み進めてしまうのが凄い。

「BLACK JACK」の説明

手術の縫い目の跡が残る不気味な顔に、真夏でも黒コート、目つきも悪ければ愛想も悪い医師「ブラック・ジャック」。

毎回患者から法外な医療費をふんだくる上に無免許医。だが、比類ない外科手術の腕を持っているので世界中から引っ張りだこ。しかも口が堅く患者に関する情報は絶対に外部に漏らさないので、各国の要人からテロ組織の首謀者、そして名もない民間人まで、他に方法の無い人々に呼び出されては、困難の伴う手術を次々と成功させてしまう。

基本的に一話完結で、どの巻から読み始めても楽しめる。極端な話、13巻15巻といった半端な巻から読み始めても十分楽しめる。

「BLACK JACK」の読書感想文

「BLACK JACK」という漫画が凄い点は、一話完結という非常に短いストーリーなのに、一話一話がとにかく深いこと。一話完結でこれほど胸に染みる話をこんなにたくさん作れるとは…と読んでるこちらが感心するくらい、ストーリーの中身が濃い。

例えば、こんな感じ。

※以下、ネタばれを含みます。要約文は当ブログ管理人が作成。


ある日ブラック・ジャックは難民キャンプに呼びつけられ、手術室もろくな機材もない状態で、大動脈に食い込んだ銃弾を取り出すという大手術を依頼される。しかもその患者は、5,000万ドルの賞金を懸けられた列車強盗。
あまりに無謀な手術にブラックジャックも一度は依頼を断ろうとするが、断り切れず、結局その患者の大動脈に別の部位の皮膚を縫いとめるという応急処置を施した。

応急処置はあくまで応急処置なので、患者が警察のいないところに逃げ延びたら改めて自分が手術を行うことを約束して、ブラックジャックは患者の元を去る。その帰路、手術を施した患者が実は義賊で、強盗をしては貧しい人々に分け与えている難民キャンプの英雄であることをブラックジャックは知った。

1年後患者から連絡を受け出向いてみると、患者はパリ警察で身柄を保護され、1年内に死刑でこの世を去る身となっていた。
患者の頼みでブラックジャックは最高の手術をやり遂げるが、元患者の死刑は変わらず、銃殺刑の場に引き出された元患者はこの世を去る最後の瞬間、銃殺刑執行者に誇らしげにある事を依頼する……


……これほど濃いストーリーが、高々20ページに収まってること自体、どう考えてもおかしい(笑) 手塚治虫って凄い。改めてそう感じる。

また、さすが医学の素養のある方と言うべきか、手術や患部の描写が細やか。臓器や血管がどの回もぼかすことなくきちんと描かれているし、医療用語も次から次へと出てくるが、説明が分かりやすい。手塚先生自身が医療畑出身の方なので、こうした描写ができるのだろう。

結局、ブラックジャックは全巻揃えてしまった。その後、この漫画のお陰で、医師を志した友人との会話に苦労しないという副産物を得た(笑) 「え、その人腹水溜まってるの? 取らなくていいの?」といったような会話が、普通にできるようになってしまった…。

漫画「残酷な神が支配する」(萩尾望都 著) の読書感想文

子どもへの性的虐待をテーマにした萩尾望都さんの漫画です。

■「残酷な神が支配する」のあらすじ

アメリカのボストンで最愛の母サンドラと幸せに暮らしていた少年ジェルミは、母の再婚を機に、イギリスへ移り住みます。
そこで新しい義父グレッグや血のつながらない義兄イアンらと、義父の広い屋敷で共に暮らすことになるのですが、夜ごと義父から酷い暴力と性的虐待を受ける地獄の日々が始まります…。

■「残酷な神が支配する」を読んだ感想

※ストーリーのネタばれを含みます。問題ない方のみ、続きをお読みください。

「シングルマザーが再婚した後、義理の父によって子どもが酷い目に遭う」という構図は、近年ニュースを騒がせている日本の児童虐待とよく似ています。そうした子供の中には、義父による肉体的・精神的な暴力で次第に精神を病み、自殺に追い込まれる子もいると聞きます。
一人の大人として、やり切れません。

「残酷な神が支配する」が連載されたのは1992年と今より20年以上前で、シングルマザーも離婚も再婚も、日本ではまだ一般的ではなかった頃です。その時既に、作者萩尾望都さんはこうした視点をお持ちだったのかと思うと、単なる少女漫画家の枠に収まり切らない萩尾さんの底力が垣間見えるような気がしました。

ストーリーの前半は、主人公ジェルミにあまりに救いがなさすぎるので、読んでいて大変辛くなります。虐待している人、虐待に気づいてみて見ぬふりをする人、虐待に気づかない人、そんな周りの人全てが、ジェルミを歪めた加害者に思え、「誰かジェルミを助けてあげて」という読者の祈りも空しく、物語は加速していきます。
読み進めるだけでも苦しいのに、それでも続きが気になって、読まずにはいられない。相変わらず、萩尾望都さんの作品の持つ力は凄いです。

こうしたテーマで人を引き込んでしまうストーリーを描ける漫画家さんは、本当に希少ですね。萩尾望都さんの本は、どんなテーマでもとにかく一度は手に取って読んでみてしまうんですが、この本もそうした1冊でした。

ただ、本作は外国の裕福な一家庭が舞台ではありますが、義父や実母の立ち位置等現代日本と似通いすぎていて怖いくらいに感じる時がありますので、現実世界で何らかの被害に遭われたことのある方は、本作をお読みにならない方がいいかもしれません。
幸いこうした事件に縁はないが性的虐待の被害者の心情を理解したい、と考えておられる方にこそ、本作をおすすめできるのではないかと思います。