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労働基準監督署・労働局に職場環境(埃・二酸化炭素濃度)の問題を相談する (1)

職場で健常者が気管支喘息を発症するほどの埃と、慢性的に息苦しさを感じるほど高濃度の二酸化炭素に悩まされ続けたので、役所の労働相談コーナーに相談に行った。

相談に先立ち書籍やインターネット上の情報を時間の許す限り調べたが、埃や二酸化炭素についてのトラブル事例・相談事例は少なく、勤務先(ワークスアプリケーションズ社)の社内にも使える知識・経験はほぼなかったので、結果的に行政機関の知恵と法令と判断に頼る形になった。

実際に改善までに結びついたことと結びつかなかったこととがあるが、身近な相談先の事例として、職場環境でお悩みの方の参考までに。

相談先

  • 労働局の労働相談コーナー
  • 労働基準監督署の窓口

相談内容(埃と二酸化炭素濃度)

①職場に尋常でない量の埃が堆積しており、重症度が最も高い気管支喘息の発病者が出るほど、就業環境が不衛生である

勤務先企業(人事ソフトで有名なワークスアプリケーションズ社)の就業部屋が、5年間ほとんど清掃されていない。 その部屋で3年弱働いた結果、重症度が最も高い気管支喘息と、あらゆる商業店舗に入店できないような強いハウスダストアレルギー・ダニアレルギーを発症した。

現在も口と鼻の両方を覆うタイプの医療用マスク(N95マスク)なしでは、勤務先企業に入室することさえできない(気管支喘息の発作が起きる)が、職場は未だ十分に清掃されていない。
喘息の重症度が高いことを理由に、医師から現時点での転職は禁じられている。労働基準監督署への労災請求も行ったが棄却され、勤務先企業には抜本的な改善が必要だという認識がない。

気管支喘息や重度アレルギーの患者でも働けるようワークスアプリケーションズ社に対応して貰いたいが、何か方法はないだろうか。

②職場内の二酸化炭素濃度が常時高く、慢性的に呼吸が苦しい

職場に入室すると喘息の発作が出るため、勤務中は口と鼻の両方を覆う医療用マスク(N95マスク)の着用を医師から義務付けられている。

だが、ワークスアプリケーションズ社内には、部屋の空調処理能力の2倍を超える数の従業員が働いており、二酸化炭素濃度は平均で1400ppmを超えている。(通常の企業は平均1000ppm未満)
そのため、職場では慢性的に酸欠であり、マスクをしていると常に呼吸が苦しい。職場内で30分以上会話をすることができず、参加人数の多い会議では、1時間会議室で座っているだけで意識が朦朧とする。職場は高層ビルの21階にあり、窓を開けての換気はできない
医師から現時点での転職を禁じられているのは、前述の通り。
勤務先企業に何とか改善して貰えないだろうか。

会社内での安全衛生の相談・改善を断念

行政機関への相談に先立ち、2017年6月頃から所属元企業(ワークスシステムズ社)と勤務先企業(ワークスアプリケーションズ社)の上司・東京本社の人事総務部・その関連部門と1対1もしくは1対2で面談を実施し、職場環境についての要望を口頭で伝えている。

だが、解決どころか勤務先の就業環境は日々悪化の一途を辿り、毎日が「出勤して8時間ひたすら耐えるだけ」の日々になっていった。
正社員雇用だったが一従業員として仕事の成果を上げられる状態では到底なく、人事考課も2〜3段階下がる有様。
在宅勤務は、ワークスアプリケーションズ社人事総務部から許可が下りなかった。(ワークスアプリケーションズ社には在宅勤務やリモートワークの制度がない)

転職したかったが、発症した気管支喘息の重症度が高く、レルベア200を含む3~4種類の薬を毎日用いても、病状が安定するまで数ヶ月を要した。転職で環境を大きく変化させると喘息が再び悪化する恐れがあったため、医師から転職を止められていた(いわゆるドクターストップ)。

勤務先企業で可能な限りの人に相談したが就業環境は十分に改善せず、2017年11月に入ると新人研修を終えた新卒社員が勤務先に多数配属されて呼吸がより一層苦しくなり、座って耐え続けることも限界に達した。

喘息発症後11ヶ月目に、社外での相談先を模索した。

会社の外で安全衛生の相談先を探す

当初、社外で労働相談を受け付けて貰えるところがどういう機関なのか全く分からなかったため、インターネットを検索したところ、下記の様なサイトがヒットした。

厚生労働省 総合労働相談コーナーのご案内
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html

「総合労働相談コーナー」とは、都道府県ごとにお役所内に用意された、労働者向けの相談窓口
労働局内もしくは労働基準監督署内に設置されており、働くことに付随する問題やトラブルについて、無料で相談を受け付けて貰える。主に平日朝9時~夕方17時までしか開いていないが、電話もしくは対面で相談を受け付けてくれ、女性の相談員も配置されている。

藁にもすがる思いで、勤務先の都道府県にある総合労働相談コーナーを利用させて頂くことにした。

なお、この時点では気付いていなかったが、総合労働相談コーナーは「労働局」に設置されたものと、「労働基準監督署」に設置されたものの2種類がある。

労働局は、労働基準監督署のいわば上司にあたり、労働基準監督署が現場で各企業の法令順守を指導する立場だとすると、労働局は労働基準監督署を監督・指導する立場。役割が異なるだけでなく、有する権限も異なっている。

私は偶然にも、労働局の総合労働相談コーナーを利用した。

労働局の総合労働相談コーナーで就業環境について相談する(相談第1回目)

出勤時間をずらし、午前10時半頃に総合労働相談コーナーへ。

部屋に入ってすぐの場所に横に長いカウンターがあり、カウンターを挟んで労働者と労働局の方が対面で話し合えるようになっていた。カウンターは2席ごとに板で仕切りがつけられており、相談中に提示した書類等が他の相談者の目に触れないよう配慮されている。
席は混んでもおらず、閑散としてもいない、という程良い雰囲気。

建物は古かったが、カウンターの奥は一般企業とよく似ており、年齢・性別様々な方がデスクを並べて仕事の真っ最中、といった雰囲気だった。
労働関連法の分厚い書籍が手近な本棚に並んでいたところだけが、一般の企業と違っていた。

私の訪問に気付いて出てきて下さった方に相談内容をかいつまんで伝えると、奥から初老の男性が出て来られた。「立派な会社にお勤めの親類」といった雰囲気で、頭が良く、話し上手で、信頼できそうな雰囲気があった。

なお、気管支喘息の発作が出る可能性があったので、マスクを着用したまま相談させて頂いた。

行政からのアドバイス:「会社の正式な窓口」に「文書」で要望を提出してみては

ワークスアプリケーションズ社の職場内の写真等をお見せしながら、相談内容を伝え、初老の男性の判断を仰ぐと、「会社宛に文書で要望を出し、文書で返答を貰ってみてはどうですか」とアドバイスを頂いた。
また、直属の上司ではなく、人事総務の問合せ窓口など「会社の正式な窓口に要望書を出した方がいい」とのことだった。

後から振り返ってみると、この時頂いたアドバイスは極めて的確だった。この時に「文書で」「人事総務部から」返答を貰うようご助言頂けていなければ、後に来る劇的な解決は起こり得なかっただろう。

労働局の窓口相談員さんに、陰ながら深く感謝。

勤務先の人事総務部宛に要望書を提出する

頂いたご助言を元に、人生初の要望書を作成。インターネットで要望書のテンプレートを検索し、要望書テンプレートと首っ引きで作成した。
気管支喘息の発症で年収が約200万円下がり、治療費でさえ生活に重くのしかかっていたので、要望書作成を社労士等の専門家に頼む余裕はなかった。

出来上がった要望書はお世辞にも分かりやすいものとは言えなかったが、ともかくも人事総務部の方と面談頂き要望書を提出、正式に受理頂いた。
その際、「空気環境測定結果の値も返答文書に盛り込んで欲しい」と口頭で依頼した。二酸化炭素濃度の値を正確に喘息の主治医に伝えるために頼んだのが、正確な数値が盛り込まれると客観性が増し医師や弁護士や行政機関の方がより判断しやすくなったため、今振り返るとお願いして良かったと思う。

提出後1ヵ月ほど経った2017年12月に、人事総務部から文書で返答が戻って来た。要望書はA4サイズ1枚しか提出しなかったが、返答文書はA4サイズ4枚程あった。
会社側の主張を交えつつ長々と回りくどく書いてあるものの、結論は「(お金がないから)要望には応じられない」といった内容だった。

代わりに、対応下さった人事総務部の方の英断で、私だけ別の階のフロアに自席を移して貰い、仕事中に息ができない問題は多少改善された。
と言っても、息苦しさが少しましになった程度で、30分以上の会話はできず、参加人数の多い会議には相変わらず参加できなかった。

備え付け空調の半数以上が破損している(まともに換気されていない)

同時期(2017年12月)に、勤務先フロアに備え付けられていた空調設備のうち過半数に異常が見つかり、空調本来の性能が発揮されていないことが明らかになった。

ビルの管理会社は「阪急阪神ビルマネジメント」(?)という阪急阪神ホールディングスの系列会社で、勤務先人事総務部が二酸化炭素濃度が高いことを報告しても「そんな苦情を申し立ててくるのは、数あるテナントの中で御社だけだ」と客を客とも思わないような対応を平気でしてきていたが、空調の破損台数の多さにようやく重い腰を上げた。
ワークスアプリケーションズ社の人事総務部と阪急阪神ビルマネジメントが連携して、空調の補修に着手することになった。

ちなみに、ビル空調が7台中4台破損していても、ビル会社に調査頂くまで、従業員は誰一人気付かなかった。私自身も全く気付かなかった。美しく近代的な外観の建物だったので、一層気付きにくかったのかもしれない。

窓の開かない気密性の高い建物において、空調設備は呼吸器疾患から従業員を守る要とも言える設備だが、原因の気づきにくさ、職場で従業員が身を守る難しさに身が震える思いがした。

労働局の総合労働相談コーナーで相談する(第2回目)

重症度の高い気管支喘息の影響で、12月から翌3月にかけて立て続けに計4回風邪を引き、喘息も一層悪化して、労働相談コーナーへ足を運ぶのも難しい状態が続いた。
3月中旬に労働基準監督署に申請していた労災請求が棄却され、寒さが和らぐ3月下旬になってようやく、総合労働相談コーナーに行ける体調に戻った。

風邪と喘息悪化を散々繰り返した後だったので、鼻と口をがっちりと覆う医療用マスク(N95マスク)を着けて訪問。

会社からの返答書類を持参し、再び労働局の労働相談コーナーに相談へ行く。
持ち込んだ資料は、

  • 要望書
  • 要望書に対する会社からの返答文書
  • 社内サイトの画面のコピー
    勤務先企業の空調設備の過半数が壊れており、事業所内の就業人数が建築基準を大きく上回っていることについて、勤務先が行なった内部調査の記録

今回は、30歳後半~40歳前半くらいの女性の方が出て来られた。真面目で、穏やかで、この方も信頼できそうに感じた。
私の説明を一通り聞き、提示した文書の一文一文に丁寧に目を通して下さった後、その女性は、

「これほど文書が揃っているなら、管轄の労働基準監督署に連絡を取り、労働基準監督署から直接対応頂いた方がいい」

と仰って下さった。各企業に対する具体的な対応は、労働局ではなく管轄の労働基準監督署から行うものらしい。その女性相談員の方が真摯に丁寧に対応下さったので、たらい回しにされている印象は受けなかった。

労働局と労働基準監督署は場所が離れており、電車の乗り継ぎも悪い。勤務時間の関係で本日労働基準監督署を訪問することは難しいので翌々日訪問すると告げると、

「労働基準監督署にはこちら(労働局)からも連絡しておきます」

と言い添えて下さった。
提示した資料は、私の同意を得た上で、労働局にてコピー・保管された。


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労働基準監督署・労働局に職場環境(埃・二酸化炭素濃度)の問題を相談する (2)

労働基準監督署・労働局に職場環境(埃・二酸化炭素濃度)の問題を相談する (1)の続き。

労働基準監督署の窓口で相談する

労働局の労働相談コーナーで相談した翌々日、改めて勤務先を管轄する労働基準監督署へ訪問。この日も分厚いN95マスクを着用して出向いた。労働基準監督署は労災請求と聴き取り調査の際既にお世話になっていたので、所在地や室内の雰囲気も分かっており、訪問にはさほど不安を感じなかった。

労働基準監督署も、室内に入ると長いカウンターがあり、そこで職員と労働者が相談できるようになっている。カウンター越しに職員の方に声を掛け、事情を説明すると、30歳台くらいの若い男性の監督官が出て来られた。

怪訝そうな顔で出て来られたので少し不安を感じたが、ともかくも男性監督官に労働局で行った説明を一通り行った。労働局から労働基準監督署へも連絡が既に届いており、N95マスク越しに長々と話さずに済んだのは有難かった。

監督官曰く、「法律の範囲内であれば企業に改善を促すことができる」そうで、①の埃については無理だが、②の二酸化炭素濃度については改善を促すことが可能、とのことだった。

補足すると、企業は2ヶ月に1回、職場内の空気に従業員の健康を害するような異常がないか測定することが義務付けられている。
私の勤務先は

  1. ① 埃(浮遊粉塵)の量は、法令(事務所衛生基準規則5条↓)の定める基準値(0.15mg/m3)を下回っていた
  2. ② 二酸化炭素濃度は、基準値1000ppmに対し測定値が平均1400ppm・最大1700ppm超であり、測定値が基準値を大幅に上回っていた。かつ、過去1年間の測定で、殆ど毎回基準値を超えていた

ので、②について労働基準監督署から会社に対し改善を促すことができる、と判断されたようだ。

事務所衛生基準規則 第二章 事務室の環境管理
https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-2/hor1-2-36-2-0.htm

その際、「この情報の出所が貴方だと勤務先にばれてしまい、不利益を被ることがあるかもしれないが問題ないか」と確認された。
職場環境を改善頂かないことには勤務を続けられないので、「仕方がない」と答えたように記憶している。

運悪く私が相談に訪れたのが3月下旬で新しい年度に切り替わる直前だったため、労働基準監督署からの対応は、新年度の4月になるかもしれないとのこと。こちらについては、対応頂けるならと快諾した。

労働局と同様、提出した書類は労働基準監督署にてコピー・保管頂いた。監督官からは窓口用と書かれたお名刺を頂戴し、ご挨拶して部屋を後にした。

勤務先企業に労働基準監督署の臨検と行政指導が入る

行政機関が新年度に入った4月中旬、労働基準監督署から私の携帯電話宛に着信があった。

折り返しお電話してみると、3月下旬に労働基準監督署で相談に乗って下さった労働基準監督官の後任の監督官からで、あの後勤務先に対しどのような対応を行ったかを教えて下さった。

労働基準監督署と相談した日から数えて13日目に、朝10時から12時の時間帯で、労働基準監督署の監督官は勤務先企業を訪問下さっていた。(いわゆる臨検監督)

勤務先の人事総務部に過去3年分の空気環境測定の結果の提出を求め、勤務先の就業環境を目視で確認下さった結果、従業員1人あたり10立方メートル以上の気積(事務所衛生基準規則第2条参照↓)が確保されておらず、改善の必要ありと判断された。
そして労働基準監督官は、勤務先に対し指導書(いわゆる行政指導)を出して下さった。

事務所衛生基準規則 第二章 事務室の環境管理
(気積)
第二条 事業者は、労働者を常時就業させる室(以下「室」という。)の気積を、設備の占める容積及び床面から四メートルをこえる高さにある空間を除き、労働者一人について、十立方メートル以上としなければならない。

「気積」とは、「室内の空気の量」を表す建築用語で、

床面積×高さ-家具の体積=気積

で計算される。
従業員が常時勤務する部屋は、従業員1人あたり10㎥以上の空気を確保しなければいけないと法令↑で定められている

当時の勤務先は「密集」という言葉が相応しいくらい1部屋に人が詰め込まれており、従業員1人あたり5~6㎥くらいしか、気積が確保されていなかったのではないかと思う..。
離席しようと椅子を後ろに下げれば真後ろの方の椅子に当たり、デスクで仕事中に腕や肘が隣の席の人に当たることが毎日あるといった、いわゆる「三密」の条件をほぼ完全に満たすレベルの人口密度だった。

法令で定めた基準が満たされていない場合に、労働基準監督署は企業に「行政指導」という形で改善を求めることができる。

労基署の指導是正勧告は行政指導の一種で、行政指導自体には強制力はない。
だが、指導や是正勧告を無視し続けると、罰金や書類送検など、より重い罰則が課される可能性がある。

勤務先から改善状況について5月末に改めて報告を受けます、とのことだったので、対応を待つことに。

約2ヶ月で強制的に職場環境改善

その後勤務先は、会議室を3部屋潰して従業員が働く部屋に作り変え、各部屋に全従業員を偏りなく配置することで、従業員1人あたり10立方メートル以上の気積を何とか確保した。

加えて、勤務先企業はビル管理会社と相談の上、壊れていた4台の空調設備を修理
そうしてようやく、室内の二酸化炭素濃度が法令の定める基準値(1000ppm)を下回るようになった。

この間、約2ヶ月かかった。

だがそれ以上に、会議室を潰し従業員の部屋へと作り替える費用や、ビル管理会社とのやりとりの手間、空調の修繕にかかる費用、行政機関の信用低下などを考えると、最低限の法令を遵守していなかった勤務先企業が被った金銭的・社会的ダメージは、一従業員が予想もしていなかったほど大きなものになった。

労働基準監督署から指導を受けたことについて、勤務先企業は安全衛生委員会の議事録を9ヶ月以上公開せず、従業員への説明を避けた。(実はこれも法令違反なので、後日別途臨検&行政指導を受けることになった..)
が、就業先が行政指導を受けるなど滅多にあることではないし、「人の口に戸は立てられぬ」の言葉通り、どこからか事態を知った従業員が別の従業員へと話して、少しずつ知れ渡っていた。

労働基準監督署の監督官から対応終了の報告を受ける

7月中旬頃、労働基準監督署の監督官から私用携帯宛に改めてお電話があった。勤務先から二酸化炭素濃度が基準を下回ったと報告があり、これをもって対応を終了します、とのご報告だった。

この頃、営業課員やコンサルタントが社内に多い月曜日はまだ息苦しかったが、それ以外の曜日は何とか耐えられる程度に息苦しさは弱まっていた。「対応頂いたお陰で身体が楽になり、何とか勤務を続けられそうです」とお伝えし、監督官に丁重にお礼を述べて電話を置いた。

労働相談コーナー利用後、勤務先企業での待遇は悪くなったか

行政指導に先立って、主治医から「ほぼ100%勤務先の環境が原因」と断言されるような気管支喘息を発症しており、労災請求を出す出さないで勤務先企業と一悶着あったため、勤務先企業との関係性は既に十分に悪化していた。

その1年後に、勤務先企業が行政指導を受けるきっかけを結果的に私が作ってしまったことになったが、勤務先企業での待遇は既に十分悪かったので、待遇も関係性もこれ以上悪くなりようがなかった、というのが正直なところだと思う。
表立って呼び出しを食らったり、叱責を受けたり、明らかに社内評価を下げられたり、給与が下がったりということはなかった。

上司や同僚の態度は、労働相談コーナーを利用した後も、勤務先企業に指導が出た後も、さほど変わらなかった。上司には事前に何度も相談しており、同僚には普段から気管支喘息やアレルギーや周辺事情について話していたので、彼ら(彼女ら)が十分な情報を持った状態で事が起きたのが良かったのかもしれない。

上司や同僚に大なり小なり迷惑がかかっただろうと思うが、今も昔も変わらず、雑談したり、昼食を共にしたり、飲みに行ったりしてくれている。

おわりに ~「二酸化炭素濃度」は解決し、「埃」は未解決のまま終結~

結果として、行政に相談した「二酸化炭素濃度」と「埃」のうち、二酸化炭素濃度については抜本的かつ不可逆的な解決が行われた。従業員が一人で対応を続けていたとしても、これほどの解決は望めなかっただろうと思う。

この点では、労働局と労働基準監督署の功績は非常に大きかった。1人の従業員のために行政機関がここまで動いてくれるとは正直予想もしていなかったので、現場で対応下さった労働局・労働基準監督署の方々には、感謝の言葉しかない。

反面、気管支喘息の原因となった「埃」については、労働局・労働基準監督署という2つの行政機関をもってしても、未解決のまま残されてしまった。
明暗を分けたのは、行政機関は法律的な裏付けなしには動くことができない、という行政ならではの縛りである。

一般にはあまり知られていないことだと思うが、行政機関は行政法に定められた範囲内でしか動くことができない。株式会社等の組織に法令違反があれば、違反した部分に対して指摘し改善を求めることができるが、法令違反がなければ、行政機関は企業に改善を求めることができない

法令による裏付けがない場合、医学的にどれほど人体に悪影響があろうと、行政機関では対応ができないようだ。堆積粉塵は高い濃度でアレルゲン物質を含み、病原菌の温床にもなる。皮膚を通じてアレルギーの発症を促し、皮膚炎・鼻炎・結膜炎・喘息発症の原因にもなることが医学的に明らかになっているが、行政機関は医学的な根拠を元に動くわけではない。

今回の「埃」の問題の場合、空気中に舞っている浮遊粉塵については0.15mg/m3以下という規制があったが、床や机に積もった堆積粉塵については、法令上の規制が見つからなかった。アレルギー体質の獲得が皮膚からの感作を通じて起きる(経皮感作)のは近年の研究で明らかになっているが、埃についてもアレルギーについても、法令は未だ追いついていないように思える。
勤務先企業は、浮遊粉塵の基準(0.15mg/m3以下)はクリアしており、残念ながら埃については手出しできなかった。

気管支喘息患者が職場内の煙草の煙を避ける方法

気管支喘息を患ってしまったら、煙草の煙は極力吸わない方がいい。気管支喘息は気管支に炎症が起きており、炎症が治るまでに、毎日吸入薬を吸い続けても半年以上かかる。煙草は健常者でも肺や気管支が悪くなってしまうほど有害物質を含んでいるのに、喘息患者が直接的・間接的に煙草の煙を吸うと、気管支を刺激してしまい、気管支喘息がより治りにくくなってしまう。

だが、日本の社会には、何と喫煙者の多いことか…。日本の喫煙率は約30~40%で、3人に1人くらいが煙草を吸っている。職場の直属の上司や同僚が喫煙者である場合も少なくなく、飲み会や信号待ちの歩道などで、喘息患者の目の前ですぱすぱ煙草を吸われることもしばしばある。

周囲との人間関係を壊さず、煙草の煙(受動喫煙)から身を守る方法のうち、実際に実践出来ているものを、以下に記載。

喫煙者の権利を言葉に出して伝える

大前提として、喫煙者にも、自分の好きな場所で好きな時間に煙草を吸う権利はある。

喫煙所など禁煙エリア以外の場所で喫煙者が煙草を吸い続けるのを、止めることはできない。喫煙者が20年後30年後に肺を悪くしようとこちらには関係のない話なので、要は、喘息患者が副流煙の被害に遭わないよう、如何に対策を取るかに尽きる。

上司の機嫌を損ねる必要もないので、「煙草のお好きな方は吸って頂いて構いません」「喫煙者の喫煙の権利は妨げる意志はありません」と、言葉に出して事前に伝えておく。

喫煙が引き起こす病気には、COPD(慢性閉塞性肺疾患)のように非可逆性の病もあり、初期症状がないため病状が進行するまで気付きにくく、進行すると服を着替えるだけで息切れするなど生活に強い制限がかかることもある。だが、今を楽しんで喫煙している方に先すぼみの未来予想図を伝えたところで、伝わらないことの方が多く、大抵の場合反感を買うだけで終わってしまう。
そのため、喫煙者が将来負うであろう自己責任については、体内に吸い溜めしている時限爆弾と時の流れに、全てを委ねるに限る。

煙草の煙が気管支喘息の治療の妨げになることを、言葉で伝える

喫煙者に喫煙の権利を認めた上で、煙草の煙が気管支喘息患者の身体に宜しくないことを、折に触れ言葉で伝える。

私は、上長との面談や、同僚との雑談の中で伝えることが多い。ポイントは、先に喫煙者の権利を全面的に認めることだと思う。後から自分の権利を主張した方が、受け入れられやすい。

伝える先は、公私問わず自分が普段関わる人達全員。全員は少し言い過ぎかもしれないが、そのくらい幅広く自分の状況を伝えておくと、喘息患者だと気付かなかった相手が、目の前で煙草を吸い始めるリスクを減らすことができる。
職場だと、上司・同じチームの同僚・同じフロアの庶務さん・人事総務部・所属は違うがよく喋る人、等々。プライベートだと、会話やメールの中だけでなく、Facebook等のSNSの自己紹介欄や近況欄でも軽く伝えておく。

目の前で煙草に火をつけられてから自分の状況を説明したのでは、お互い気まずいので、事前に早めに伝えておく方がいいと思う。

マスクは終日着用

伝えるべきことを伝えたら、自分の身体を守るための対策は全て行う。

マスクは終日着用し、極力外さない方がいい。私はマスクなしでは就業許可が下りなかったので強制終日着用だが、それほど酷くない方も、身体に合うマスク一枚で煙草の煙から埃・花粉・ウイルスまで、防げるものが随分と増える。「飲み物を飲む時以外マスクは外さない」くらいの方が、身体にとってはいいのではないかと思う。

最もおすすめのマスクは遮断率の高いN95マスクだが、顔が鼻の上までマスクに覆われちょっと周囲をギョッとさせてしまうので、目立ちたくない方は市販の抗ウイルスマスクでもいいと思う。抗ウイルスマスクなら、マスクの紐を軽く縛り、肌との密着度を高くして使用するのがおすすめ。
 → 筆者おすすめのマスクはこちら

煙草を吸った人には、30分間半径5m以内に近づかない

街で見知らぬ喫煙者が歩き煙草していたら、半径5m内には近づかない。どうしても5m内に入らざるを得ない時は、息を止めてやり過ごす。

職場でも同様で、上司に呼ばれても上司が喫煙直後なら、少し離れて会話するか、後ほど時間をとってゆっくり話すようにしている。幸い、最近はメール・チャット・SNS・WEB会議で仕事を進めることが増え、直接対面で話す割合が減ってきたので、今のところ特に問題なく実行出来ている。

ここまで徹底する理由は、たとえ職場や店が分煙で喫煙所が別室だったとしても、煙草を吸った後約20分間は、喫煙者の口元から副流煙が流れ続けるから。
周囲の方が紙煙草ではなく電子煙草を愛用されているとしても、電子煙草の身体への影響は研究され尽くしたとは言いがたく、医学論文や研究レベルで情報が十分に出揃っているとも言えないため、現時点では紙煙草と同じ扱いにしている。

喫煙所周辺は厳重警戒

分煙の職場では、喫煙所が別室に設けられていることがある。だが、建物の構造が古かったり、喫煙者数が多かったり、喫煙者のマナーが悪かったりすると、喫煙室の外まで煙が漏れ出していることがある。

エレベーターホールや女子トイレにまで煙草の臭いがするので、一度私物の空気測定器を持ち込んで職場内を計ってみたことがあるが、喫煙室から2~3mの場所にある部屋はpm2.5が69μg/m3で、7~8m以上離れた部屋でも44μg/m3あった。

pm2.5は黄砂や大気汚染の問題でよく登場するが、人の健康を維持するのに望ましいと環境省が提示している基準(環境基準)では、pm2.5は1日平均35μg/m3以下とされている。

微小粒子状物質(PM2.5)に関する情報 – 2.環境基準について
https://www.env.go.jp/air/osen/pm/info.html#STANDARD

人に健康被害を与え得る濃度のpm2.5が、喫煙室周辺ではごく日常的に垂れ流されていることが分かり、驚愕した。あまりに値が高いので、別の日に改めて計り直してみたが、結果は変わらなかった。1日平均までは計測しなかったので定かではないが、呼吸器疾患を発症・悪化させうる環境であることは間違いない。

全ての職場がこのような状況とまでは言えないが、喘息持ちである以上、「喫煙室には近づかない」くらいの気持ちでいた方がいいだろうと思う。

喫煙者の出席する飲み会には出席しない

職場の飲み会は、煙草の煙が治療の妨げになることを理由に、原則欠席している。

「私は煙草を吸われる方の邪魔になってしまうので…」と、喫煙者の権利に配慮することを忘れずに。仕事上の付き合いや社交は、自分で選んだ禁煙の店にランチに誘うことで、お茶を濁している。仕事上の飲み会は、勤務時間外の開催であることが殆どで、既婚女性等健常者でも殆ど参加できない方がいらっしゃるため、今のところこれで支障がない。

お世話になった人の送別会等、どうしても飲み会に出席する必要がある場合は、幹事に事情を伝え、一次会だけは全面禁煙の店で実施して貰うようお願いすることにしている。
あえなく喫煙OKの店に決定してしまった場合は、出席者の酔いが回った頃に用事を理由に途中退席するなど、副流煙に曝露される時間がなるべく短くなるよう心掛ける。

接待等は自分が幹事を買ってでて、全面喫煙or分煙の店を選んでしまえばOK。

職場全体が喫煙可の場合

携帯型空気清浄機で防御

近年少なくなったが、もし勤務時間中もデスクで煙草OKという過酷な職場であれば、携帯型空気清浄機の持ち運び等も検討されるといい。卓上タイプや首から吊り下げるタイプなど、近年さまざまな空気清浄機が発売されている。私も1つ吊り下げタイプのもの↓を購入し、家に常備している。

上司を説得する

気管支喘息患者のように気管支や肺が強くない人が、毎日何時間も受動喫煙に曝されるのは、どう考えても身体に良くない
社内に物分かりの良さそうな上司がいるなら、

「タバコ病(COPD)は肺の細胞が壊れるので、一度でもかかると、快復は望めません…」
「呼吸器疾患は初期段階だと痛みがないので、息切れで歩けないくらい悪化するまで、気付かないこともありますよ」
「煙草の煙で喉・気管支が刺激を受けるので、健常者も風邪・インフルエンザにかかりやすなります」
「服に臭いが付くので、客の心証が良くないです..」
「女にモテません!」

等々、喫煙のリスクで思いつくものを挙げて説明し、禁煙エリアを広げたり、空気清浄機を追加導入して貰ったりと、できる範囲ででも職場改革・意識改革を進めた方がいい。
時間と手間のかかる方法だが、世間で禁煙の機運が高まってきたので、波風を立てず穏便に改善できる可能性がある。

空気環境測定結果を確認する

職場では2ヶ月に1回空気環境測定を行ない測定結果を3年間保存することが、法律で義務付けられている。測定結果には浮遊粉塵の量や二酸化炭素濃度などいくつかの項目があるので、もし可能であれば、人事総務部に問い合わせて、1年分の空気環境測定結果を見せて貰うといい。

喫煙を取り締まる法律は今のところなく、現行の法律では企業努力を促すに留まる。だが、空気環境測定結果に明確に違反している項目があるなら、その点については、労働局や労働基準監督署に相談すれば対応して貰えることがある。

過去に、私は職場内の二酸化炭素濃度が高すぎて息が苦しいため、労働局の労働相談コーナーに何度か足を運んで、相談したことがある。窓口に出て来られた公務員の方のアドバイスに従い、会社に文書で要望を伝えたり、開示されていた資料を集めたりしたところ、労働局から会社に直接働き掛けて下さり、大きく改善に向かった。

但し、会社にこの行動が見つかると、煙たがられたりパワハラを受けたりすることがあるので、実行する際には十二分に注意を払ってほしい。

それでも職場側が何も変わらない場合(残念ながらこの可能性も結構高いのだが…)は、長期的に異動や転職も視野に入れて、道を模索した方がいいのでは…、と個人的には思う。

健康な人が気管支喘息とハウスダストアレルギーを発症する職場環境

1年前まではごく普通の健康な会社員だったが、勤務先の埃っぽい環境に長く身を置いた結果、ハウスダストアレルギーと気管支喘息が持病になってしまった。

今まで、喘息やアレルギーの既往症はおろか、入院や手術をしたことさえない健康体だったので、どういう条件が揃えば、健康な人がハウスダストアレルギーや喘息を発症してしまうのかをシェア。

なお、 発症に至るまでの経緯や症状を折に触れ人に話すことがあるが、 医師・転職時の面接官・人材コーディネーターの方々・友人・親戚に至るまで、

 「こうした事例は聞いたことがないですね…」
 「本当にいまどきそんな会社あるんですか?」
 「にわかには信じがたい」
 「何回聞いても、大変そう」
 「……(絶句)」

と、驚愕からしみじみとした同情まで、皆様いろいろな反応を返して下さるので、際立って特異な環境に身を置いていたことだけは確かだ。

気管支喘息とハウスダストアレルギーを発症した職場環境

5年以上掃除されていない部屋

私は普段サーバを操作するエンジニアとして働いているが、当時の勤務先(ワークスアプリケーションズ社)に、顧客サーバを遠隔操作で扱うことが特別に許されている部屋あった。

その部屋で毎週週4から週6くらい、朝10時前から夕方〜夜23時まで2年半に渡って勤務し続けたら、気管支喘息とハウスダストアレルギーを2点セットで発症した。

発症後に分かったことだが、その部屋は会社側がビルの清掃業者に入室を許可しておらず、入室に必要な電子カードも渡していなかった。そのため、その部屋は5年に渡って、殆ど掃除がされたことがなかった(!)。 確かに、その部屋はぱっと見てすぐに分かるほど埃の量が桁違いで、部屋全体が倉庫か紙屑入れのようだった(笑)

「埃の多い部屋だな」
「この部屋に入ると、よく咳込むな」

と思ってはいたが、勤務先はワークライフバランスを無視した業務量でも有名な企業だったので、私も殺人的業務量のとばっちりを受け、平日には通院はおろか、美容院で髪を切る時間(約1時間)すら取れない有様だった(これでも女なのだが…)。

黒いパソコンのキーボードに、埃が隙間なくびっしりと積もっている写真。キーボードは日本語表示で、EscキーやTabキーが写っている。背景は灰色の金属製の台。

↑ 数年間まともに掃除されていない部屋に置かれていたキーボード。とにかく埃が凄い

定期清掃を導入しようと、ルンバ購入の稟議を勤務先にかけあったり、面談の折に上司に相談したりはしていたが、いかんせん割ける時間が少なく、会社も金を生まないことには積極的に動いてくれない。
私の担当していた業務はその部屋でしかできなかったため、埃に耐えながら、業務を続けざるを得なかった。

ちなみに、最終的に発症したハウスダストアレルギー&気管支喘息は、マスクをしてもスーパーや衣料品店に入れないレベルのものだった。入店すると10分以内に息切れが起き、呼吸が苦しくなり、心拍数が毎分90回を振り切って喘息発作が生じる。

現在、絶賛労災手続中である…。

職場全体が埃だらけ

白い窓枠に灰色の埃がびっしりと積もっている写真。窓枠の下に、灰色の電源タップがあり、電源タップにも埃が積もっている。

↑ 室内のガラス窓付近

部屋単位の汚さランキングは「5年間掃除されていなかった部屋」がトップだが、5年間掃除されていなかった部屋が目立たない程度には、他の部屋も十分汚かった(笑)
企業別で見ても、残念ながら、今まで勤務させて頂いた会社の中でこの企業が最も汚く、汚さレベルもダントツだった。

今思い返すと、コピー機も自販機も電子レンジも冷蔵庫も傘立ても、とにかく会社内にあるありとあらゆる物に、埃が積もっていた。
「うっすら積もる」という生やさしいレベルではなく、歩きながら3〜5m離れた場所から視界に入った時に、「埃が積もっているのがはっきりと分かる」ようなレベル。

気管支喘息を発症した会社で、当時置かれていた傘立てを撮影した写真。黒い傘2~3本の柄に埃で積もり、柄が灰色になってしまっている。

↑ 勤務先に置かれていた傘立て

事業所全体の清掃はビルメンテナンス会社に外注していたが、依頼内容が掃除機かけとゴミ捨てだけで拭き掃除を依頼しておらず、時間を割いて拭き掃除をしないといけないという風潮も社内にないため、机や棚や傘立てなど床より上にある備品には、埃や髪の毛や紙ゴミが静かに降り積もっていた。

ちなみに当時は、机を軽く水拭きすると1時間もしないうちに、またうっすらと埃が積もった(!) 勤務先はおしゃれなビルの高層階で
、窓は全てはめ殺しで室内は埃だらけなので、空気中に漂う埃が多すぎたようだ。

従業員は、10cm先に埃がどっさり積もった台に珈琲入りのマイコップを置いたり、蓋を開けた衝撃で埃が舞い散りそうな電子レンジで、持参したお弁当をチンしたりしていた…

気管支喘息を発症した会社で、当時置かれていた執務机を撮影した写真。薄い灰色の机の上に、はっきり見えるくらい埃が積もっており、髪の毛が2本落ちている。水色と青色の2種類のLANケーブルのコードが、机の上に這っている。

↑ 勤務先の執務デスクの上。大体どの机もこんな感じ。

従業員は埃だらけでも平気

あまりに埃が多いと、働く人も感覚が麻痺してくるのか、目の前の机や椅子やパソコンに慢性的に埃がびっしり積もっていても、気にも止めずに仕事を続ける方が大多数。 掃除をしようという考えが、まず頭に浮かんでいなかった。
それよりも仕事で目に見える成果を出し、人事考課で社内評価を上げて、出世したがっている人の方が多かった。従業員の約9割を男性が占める職場だったからだろうか。

机だけでも定期的に水拭きして貰おうと、勤務先の本社の部署に掛け合ったことがあるが、

「東京本社で先行して行ったことがあり、猛反発を受けた」
「拭き掃除をして欲しいというニーズが、地方事業所にあるとは考えにくい」

という理由で却下され、驚いた。

今までお世話になった他の勤め先は、定期清掃の方が毎朝軽く水拭きして下さったり、デスクの島ごとにウェットティッシュの筒↓が置かれていて各自拭くことになっている職場ばかりだったので、「清潔や社内衛生に、ここまで無頓着な会社があるのか…」と呆れた。

後日デスクの島ごとにウェットティッシュを置くよう要望してみたが、

「東京本社ではそうしたことを行っておらず、地方事業所だけ行うと本社も行わなければならないので、許可できない」

という理解不能な理由で、またしても却下された。
役員や顧客が頻繁に出入りする本社こそ、こまめに掃除した方がいいと思う…

私物を好きなだけ持ち込んで構わない職場で、おもちゃのフィギュアや日本酒や山積みのレトルトカレーが、人様のデスクに置かれているのを見かけたことがあるので、机を触られる=自分の部屋を荒らされる、という気分になるのかもしれない。

ビル空調設備が壊れている、強制的に停止させられる

こちらも喘息発症後に判明したことだが、ビル空調の約半数が、壊れたり風量を変えられていたりして、本来の性能を発揮できない状態のまま放置されていた。

事業所の入ったビルの空調設備は、定期的に点検することが法律により定められているので、ここまでくると立派な法律違反である。

だが、空調設備が壊れていても、異音でもしない限り、従業員は気が付かない。私の場合も、喘息発症後9ヶ月が経った頃に、社内調査を経てようやく判明した。定期点検が必要という事実も、法律に明るい方や長年人事総務に携わった方でなければご存知ないだろう。そのため、盲点にはなりやすい。

相対湿度が40%未満で、毎年冬に風邪・インフルエンザが蔓延する

職場内の相対湿度は、季節を問わず40%から70%の間であるよう、建築物衛生法で定められている。しかし私が喘息とハウスダストアレルギーを発症した職場は、秋・冬・春にかけての相対湿度が、法の定める基準値40%を下回っていた。

相対湿度が40%を下回ると、喉等の上気道の粘膜が乾燥し、抵抗力が下がる。埃の多い職場なので、粘膜は埃等の異物でも傷つけられ、更に抵抗力が下がる。逆にインフルエンザウィルスの生存率は、相対湿度40%未満の方が高くなる。

結果として職場環境は、ウイルスなどが体内に侵入しやすく、発症もしやすい環境になっていた。

そのためか、私の勤務先は、以前勤めていた職場と比べて、冬に風邪やインフルエンザでダウンされる方の数が非常に多かった。
20代~30代前半の男性が職場の約9割を占めており、スポーツ好きな人も多かったので、病弱な人が多いわけではない。にも関わらず、毎年冬にはチーム内・部署内で次から次へと風邪・インフルエンザの罹患者が出て、どのチームも急に人が欠け、仕事に支障が出ていた。

新卒入社でその勤務先で働いている方は特に疑問に思わなかったようだが、以前製薬会社で勤務した経験がある人間から見ると、少々異様と思える状況だった。

また、風邪・インフルエンザは、気管支喘息の悪化要因の1つである。私自身も発症前の冬に2度も風邪を引いたので、発症していた喘息はより悪くなったのだろうと思う。

花粉症・アレルギー性鼻炎・目のかゆみに苦しむ方が多い

職場に5年10年と勤めている従業員に、花粉症・アレルギー性鼻炎・アレルギーによる目のかゆみを訴えている方の数が、不思議なほど多かった。

喘息治療を続けていると、どうしても世間話で体調の話が出る。その際、「私もハウスダストアレルギーです」「私は鼻炎があります」等々、会う人会う人アレルギーや花粉症の症状があることを口にされる。

調べてみると、埃の成分にはハウスダスト・ダニ・花粉等が含まれているので、埃が多い=花粉も多い ということになる。勿論ハウスダストやダニも多いので、花粉症の方、アレルギー性鼻炎の方に出くわしやすいことにも、合点がいった。

なお、私の他にも、喘息の方、喘息一歩手前の症状が出られた方も各1名おられたことを付け加えておく。

気管支喘息とハウスダストアレルギーの発症に至るまでの時間

約2.5年

勤務した期間は3年1ヶ月だが、最初の半年間は見習いということもあり、仕事の負荷が軽く、残業時間も短く、埃部屋で働く時間もそこまで長くなかったので、実質2年半と考えていいと思う。

発症者の病歴や体質

入院歴・手術歴なし。会社員なので、年1回の健康診断受診を義務付けられていたが、痩せすぎ以外では引っかかったことはなかった。(痩せすぎでBMIだけ毎年引っかかっている)

病気は、年に1回風邪を引く程度。2ヶ月に1度くらい偏頭痛、半年に1度くらい生理痛で2〜3時間ほど動けなくなることがある。花粉症はなし。子供の頃、アトピーの症状は数年出ていたが、小児喘息を患ったことはなかった。

発症前は気づいていなかったが、発症後に血液検査を受けると、2回ともハウスダストアレルギーとダニアレルギーが陽性だった。但し、陽性と言っても7段階中の2のレベル(RAST値が2)でしかなく、発症確率は約13%。

終わりに ~好きなことができなくなる~

喘息は一度発症してしまうと、現代の医学では治す方法が確立されていない。ハウスダストアレルギーも同様に、確実に治す方法が見つかっていないので、毎日毎日抗アレルギー薬と分厚いマスクで症状を抑えるしかない。

それでもスーパー・コンビニ・衣料品店・書店・図書館に入れないなど、日常生活はかなり制限を受け、不自由な暮らしを強いられた。
 → 筆者が入れない店・場所についてはこちらへ

好きなところに自由に行けないと、苦しく、ストレスも溜まる。ストレスが溜まっても、下手なところに出向くと逆に発作が起きるので、自宅等の限られた場所で発散させるしかなく、そんな状態が何ヶ月も続くとさすがに気が滅入ってくる。

仕事でも活動が制限され、私のようにエンジニアから事務仕事へ異動させられたり、転職を余儀なくされたり、やりがいのある仕事ができなくなったり、年収が大幅に下がったりする。

ハウスダストアレルギーも気管支喘息も、発症する前に環境を正してしまう方が圧倒的に楽であることは、疑いようがない。
掃除が面倒で、掃除することに意義を見いだせなくなったら、こうした事例を思い起こして頂ければと思う。