気管支喘息患者は自動車の運転免許を取得できる?

喘息の重症度や発作時の頻度や症状によると思うが、喘息は大きな発作が起きると、息をするのも身動きするのも難しくなる。発作が非常に強い場合、気道が完全に閉塞して窒息状態に陥り、意識を失って死に至る可能性もゼロではない。

普通自動車の運転免許を取得するには、数ヶ月間自動車教習所に通わなければならないが、私は教習所に申し込み数回車を走行させた後に、気管支喘息を発症していることが発覚したので、喘息持ちでも運転免許が取得できるか、どういったことを注意すべきか、教習所に相談してみることにした。

自動車教習所に相談

窓口の事務員さんに事情を説明し、「今後教習所に通学可能か相談したい」とお話ししたところ、初老の男性事務員さんが出て来られた。
そのおじさまは、ご自身のお母さまが喘息をお持ちで、喘息の発作時の苦しさをよく理解されており、話がとてもスムーズに進んだ。

  • 発作の頻度はどれくらい?
  • 今まで車を運転されている時に、発作を起こしたことはありますか?
  • 車の排気ガスなどで発作を起こしたことはありますか?
  • お医者様にはどのように言われましたか?

ということを尋ねられたので、
発作の頻度は週1回程度で今のところ発作は全て吸引薬で抑えることができていること、発作時に意識を失ったことは一度もなく、排気ガスを吸い発作が起きたこともないこと、お医者様にはまだ相談できていないこと、などを正直にお話しした。

事務員さん曰く、

  • 喘息の発作時に意識障害が起きない(=意識を失わない)のであれば、教習所の通学は可能
  • 意識障害が起きるほど発作が強い時は、別途適性検査を受けて頂くことになる
    適性検査の結果次第では、残念ながら、教習所に通って頂いても運転免許を取得できないことがある

とのこと。
「意識障害が起きるかどうかについては、お医者様に相談してみて下さい」、とのことでその日は終了。

相談してみるまでは、「教習所の料金を全額払い込んだのに通学停止になると困るし、相談しない方が良いかな?」とも思っていたが、困っていること・迷っていることを正直に話せば親身になって全て答えて下さったので、相談して良かったと思った。

呼吸器内科の医師に相談

中規模の総合病院の呼吸器内科の医師に、自動車の教習所に通い続けて問題ないか、改めて相談してみた。
医師の先生曰く、

  • 現在の病状では、意識障害が起きるほどではないと考えられるので、通学して差し支えない
  • 通学時には発作用吸入薬を必ず持っていくこと

とのことで、一安心。

運転を妨げるものたち

医学的には問題なかった自動車教習所への通学だが、生活の変化や、自分や周囲の理解の浅さが、通学の足を引っ張ることが多かった。

収入が途絶える(もしくは激減する)

喘息を発症した後、2ヶ月半の休職と5ヶ月の時短勤務を経験した。その間、当然のように収入が激減した。実家暮らしで扶養家族もいないが、給料の手取りが5万以下の生活が何ヶ月も続くと、さすがに教習所通いや車の運転どころではなくなってくる。

以下細かい話になるが、小さい会社のITエンジニアだった私は、勤務先(ワークスアプリケーションズ社)の環境が原因で喘息を発症したので、健康保険適用ではなく労災保険を請求した。労基署の認可が下りるまで休職期間の療養給付金は支給されず、その間傷病手当金も申請できない(と当時思っていた)ので、完全なる無収入だった。(労災でなければ、健康保険による傷病手当金が給与の60%分支給される)

職場復帰も、8時間勤務・残業・出張どれも差し支えないと仰った主治医の判断ではなく、勤務先に用意されていた時短制度の適用が優先されたため、4ヶ月間3~8時間の時短勤務を強いられ、その間の手取り給与額は3万~10万だった。

私は扶養家族が1名なのでまだいい方だが、マイホームのローンを抱えた方や、一家の稼ぎ頭が喘息に罹った場合、一気に窮地に追い込まれてしまう。貯金を取り崩しながら暮らすことになるが、喘息がいつどのくらい悪化・改善するか、職場復帰できるかは誰にも分からないので、大なり小なり不安を抱えながら暮らすことになる。

周囲の無理解

運転を教えて下さる教習所の先生に、「運転中に発作が起きたら、路肩に寄せて休んだらいいだけですよ」と言われたのは、辛かった。不慣れな運転のさなかに、発作で呼吸しづらい状況で、周囲の安全を確認して車を安全に路肩に止める自信などない。
ましてや高速道路運転中は、車を停止することさえできない。

車の免許を取って田舎暮らしをしたいという夢と、本当に運転して大丈夫だろうかという不安の間で、気持ちは常に揺れ動き、不安に負けた時期は教習所を休みがちになった。

最終的に、不安と貧困に負けてしまい、私は自動車教習所の通学を断念した。「気管支喘息を発症する前に、運転免許を取っておけば良かったな」と、過去を振り返り後悔することが、発症から2年が過ぎても未だにある。