21_BookForChild(児童書)」カテゴリーアーカイブ

「ベートーベン―運命の大音楽家」(高木卓 著) あらすじと読書感想文

子どもの頃に繰り返し読んだ伝記からもう一冊。音楽にひたむきに打ち込むベートーベンの生涯が、読む人の心をとらえて離しません。

「ベートーベン―運命の大音楽家」のあらすじ

声楽を仕事とする飲んだくれの父親に育てられたベートーベン。
父ヨハンはベートーベンを、13歳で神童と呼ばれたモーツァルトのようにしたくてたまらず、まだ8才にもならないベートーベンを夜中の2時でも気にせず叩き起し、初見でピアノを演奏させたり、演奏の途中に転調を何度も入れて弾かせたりと、熱心すぎるほどのレッスンを行います。

ベートーベンは、父は自分を見世物のようにしてお金を稼ぎたいだけなのだと気付いていましたが、母の苦労を間近で見続けていることもあり、小学校まで辞めさせられても音楽から逃げることが出来ません。
父の熱心な教育の甲斐もあり、持ち前の才能をぐんぐん伸ばしたベートーベンは、11才にして宮廷音楽士として働き出し、作曲した曲を楽譜として出版し、貴族や侯爵の家でピアノを教えるようになります。

ですが音楽に打ち込む日々の中、恐ろしいことに、ベートーベンの耳は徐々に聞こえなくなっていきました。遺書を書き、一時は自殺まで考えたベートーベンでしたが、もう一度音楽に向き直り、再び素晴らしい曲を生み出していきます。

「ベートーベン―運命の大音楽家」の読書感想文

この本を読んでいた頃はまだ小学4年生くらいで、クラシック曲を聴く習慣がなかったので、どの曲がベートーベンの曲なのか全く分からないまま読んでいました。

ですが、耳が上手く聞こえないのに人から賞賛を受けるほど素晴らしい音楽を作れる、というベートーベンが不思議で、この本をよく読み返していたのを覚えています。
ベートーベンの音楽への情熱は、本当に人の心をとらえて離しません。
音が聞こえなくなることが、音楽家である彼にとってどれほど辛いことだっただろうと思いますが、それでも安易に死に逃げず、音楽をやめなかったベートーベンの姿勢は、時を経てもなお美しいと思います。

大人になり、クラシック曲の持つ音の繊細さと美しさに目覚めてからは、ベートーベンの偉大さがより深く理解できるようになりました。ベートーベンの凄さは、「この曲は本当に、難聴の方が作ったんだろうか…?」という一言に尽きます。交響曲第7番・第9番(歓喜の歌)を好んで良く聴きますが、こんなに複雑で美しい旋律をどうやったら思いつくのかが、まず分からない。ましてや、さまざまな楽器の音を組み合わせて、完成後何百年後を経てなお称賛を受ける交響曲に仕上げる方法は、耳がよく聞こえていても私には創作不能です。

昔には凄い方がいたものだ、と時折本を読み返しては、しみじみ感じています。

「ぽんたのじどうはんばいき」(加藤ますみ 著) あらすじと読書感想文

心あたたまる絵本を1冊。ぽんた君がかわいすぎます。

「ぽんたのじどうはんばいき」のあらすじ

たぬきのぽんた君は、ふもとの村で見かけた自動販売機をとても気に入ってしまい、森に帰って自分も自動販売機を作ろうと思い立ちます。

ぽんた君はたぬきですから、葉っぱを何かに変えるのは、得意中の得意。自動販売機に葉っぱを入れてもらい、お願い事を聞かせてもらえれば、ぽんた君が「ぽぽんのぽん!」で葉っぱを欲しいものに変え、みんなのお願いを叶えてあげられるわけです。

「うえのくちからはっぱを入れて ほしいものをいってください。」

そう書かれたお手製の赤い自動販売機の後ろに隠れ、ぽんた君が待っていると、いろんな動物がやってきて、ぽんた君にお願いを始めました。
でもある動物さんのお願いに、ぽんた君はとても困ってしまいます……。

「ぽんたのじどうはんばいき」の読書感想文

この子たぬきさん、かわいすぎます……。何でこんなにかわいいんでしょう。読んでいて大変癒されます(笑)

自動販売機を作って誰かのお願いを叶えてあげるというその発想がそもそも心優しく、目の前で困っている誰かのお願いを何とかして叶えてあげようとする姿がいじらしいです。何ていい子たぬきさんなんだ。

私のようなすれた大人が1人でもいたら、お金や高級品が欲しいなどとお願いして、かわいらしい子たぬきさんの優しい思いを台無しにしてしまうところです…。

閑話休題。

実家にあったこの「ぽんたのじどうはんばいき」は、実兄が幼稚園であまりに読み耽っていたので、卒園式の時に幼稚園の先生がプレゼントしてくれた本だったそうです。

その後成長した兄は見事な世話焼きに育ち、最後には生涯を人のために尽くす医療の仕事に就いたところを鑑みると、ある意味、実兄はこのぽんた君そのものです。
絵本とは、幼い子どもの心を形作り人生さえ影響を及ぼしてしまうという、とても力のあるものなのですね。

小さい頃好きだった本に寄り添うような人生を人は知らず知らずのうちに選ぶ、というのが私の仮説なんですが、今のところ、大きく外れてはいないなあ、という印象です。

created by Rinker
ひさかたチャイルド
¥1,100 (2024/04/27 16:02:21時点 Amazon調べ-詳細)

「しろくまちゃんのほっとけーき」 (わかやま けん 著) 読書感想文など

もうすぐ2歳になる姪が大好きな絵本です。

「しろくまちゃんのほっとけーき」の説明

しろくまちゃんがお母さんといっしょにホットケーキを作る絵本です。

冷蔵庫を覗いてたまごを取りだし(その際しろくまちゃんはたまごを1つ落として割ってしまいます)、ボウルをごとごと鳴らしながらたまごと小麦粉とおさとうを頑張って混ぜます。フライパンに流し入れたら、焼き上がるまで、リズミカルな音に耳をすませたり、ちょっと覗いて焼き加減を確かめてみたりします。
焼き上がったらお友達のくまちゃんを呼んで、みんなでいっしょにあつあつのホットケーキをいただきます。

「しろくまちゃんのほっとけーき」の読書感想文

絵本にリズミカルな擬音語が溢れています。
主人公のしろくまちゃんがたまごをボウルに割り入れる場面では「ぽたぁん」、ホットケーキが焼けるまで待つ場面では「どろどろ」「ぴちぴち」「ふくふく」など、絵本全体にリズミカルな言葉が多く散りばめられています。

実際に声に出して読んでみると、子どもに読み聞かせる経験の少ない大人(=私)が読んでも、リズム良く楽しく読める言葉が選ばれていました。それをじっと聞いている子どもも、お気に入りの言葉とページが出てくるたびにきゃっきゃと楽しそうな声をあげ、笑顔を見せてくれますので、子どもの耳にも聞き心地のよい言葉なのだと思います。

何度も読み聞かせましたが、姪はこの本を読み終わるたびに、小さい手でまたこの絵本を差し出してきて、大人にもう一回読ませようとします(笑) ホットケーキを作るだけというとてもシンプルなストーリーですが、子どもにとっては何度も読みたい&聞きたいくらいに、お気に入りの1冊になってしまうようです。

created by Rinker
子どもの文化普及協会
¥990 (2024/04/27 17:44:17時点 Amazon調べ-詳細)

「11ぴきのねこ どろんこ」 (馬場のぼる 著) あらすじと読書感想文

とらねこ大将率いる11匹の猫達と、どろんこ遊びが大好きな恐竜の子のお話です。

「11ぴきのねこ どろんこ」のあらすじ

※ストーリー前半部分のあらすじのみを記載

11匹のねこは、山の中にある山小屋で暮らしています。ある晴れた日、11匹の猫たちがロープや竹の棒など思い思いの道具を手に、獲物を探しに出かけました。今日は、森の奥にある山鳩の巣がお目当てです。

猫たちが森の近くの沼に差し掛かかったとき、「ジャブ、ジャブ」「バッシャーン」と大きな音が聞こえてきました。猫たちが見てみると、首が長く、淡いオレンジ色の身体をした、今まで見たことのないような生き物が、泥の沼でバシャバシャ遊んでいました。どうやら、恐竜の子どものようです。
猫たちが来ると恐竜の子は沼から上がり、身体についた泥をブルンブルンとはね飛ばして、どこかへ行ってしまいました。

その次の日11匹の猫たちは、昨日と同じ恐竜の子が崖の下にいるのを見つけます。猫たちが「ジャブ」と呼びかけても「ウホーン…」と悲しげな声で鳴いているところを見ると、どうやら崖から上がってこれないようです。

ジャブを助けてやろうと11匹の猫たちは一致団結、太いロープを持ってきて、ロープの端に恐竜の子が通れるくらいの輪っかを作り、崖下まで垂らしました。
ジャブが輪っかに身体を通し、11匹の猫全員でロープを引っ張ると、恐竜の子は無事に崖の上まで上がって来、森の奥へと帰ることができました。

それから随分たったある日、11匹の猫たちが住む山小屋に恐竜のジャブが訪ねてきました。暫く見ないうちに身体の大きくなったジャブは、猫たちみんなを背中に乗せてあげると申し出ます。

ジャブの身体の首から尻尾まで11匹の猫たちが一列に並んで乗り、ゆっくりと歩きだしたところまでは良かったのですが、泥遊び大好きなジャブは、そのままの姿で泥沼に浸かってしまいます。ジャブも猫たちも、みんなどろんこになってしまい…

「11ぴきのねこ」シリーズについて

とらねこ大将率いる11匹の猫たちが、さまざまな冒険やチャレンジをするお話。11匹の猫たちは勇敢でわんぱくですが失敗も多く、総じて可愛らしいストーリーが多いです。
現時点で7冊出版されており、発行された本は下記の通り。(下にいくほど新しい本です)

「11ぴきのねこ」
「11ぴきのねことあほうどり」
「11ぴきのねことぶた」
「11ぴきのねこ ふくろのなか」
「11ぴきのねことへんなねこ」
「11ぴきのねこ マラソン大会」
「11ぴきのねこ どろんこ」

「11ぴきのねこ どろんこ」の読書感想文

※ストーリーのネタばれを含みます。問題ない方のみ続きをお読みください。

「11ぴきのねこ どろんこ」は、11匹の猫とどろんこ大好き恐竜ジャブの友情物語です。
ストーリーは全体的にほんわかとしていて、ジャブと11匹の猫が、トラブルや泥遊び等々を通じて、助け合ったり喧嘩したりしながら友情を深めていくストーリーになっています。

11匹のねこや11匹の猫とあほうどりにあるような、抱腹絶倒の完璧なオチはありません。オチを求めてこちらの絵本を買ってしまうと肩すかしを食らってしまうので、その点はご注意下さい。

初めて読んだ時、この「11ぴきのねこ どろんこ」の本の言いたいことがうまく理解できず、ストーリーに大きな山も谷もない、不思議で少し物足りない絵本に思えました。ですが、恐竜ジャブと猫たちの友情のお話なんだと気づいてからは、これはこれでいいお話だと思えるようになりました。

特に、物語の始まりのころ小さな子どもだったジャブは、物語の最後には立派な大人の恐竜になり、子どもまで連れて戻ってきます。でも、ジャブの姿やジャブを取り巻く状況がどんなに変わっても、猫たちとジャブとの間にあるのは飾らない友情だけで、困った時は助け合い、嫌だと思った時はやり返し、みんなでよく遊んで、11匹の猫もジャブも何も変わりません。最後にはみんなにして仲良く泥まみれになって話が終わります(笑)
これはこれで、友との在り方としてはなかなか悪くないな、と最後には感じるようになりました。

「ぐりとぐらのおきゃくさま」(なかがわりえこ 著) あらすじと読書感想文

子どもの頃大好きだった「ぐりとぐら」のシリーズから、真冬のお話を1冊。

「ぐりとぐらのおきゃくさま」のあらすじ

※ストーリーの前半部分のみを記載

冬の雪深い森に入ったぐりとぐらは、ぐりとぐらの背丈ほどもある大きな足跡を見つけます。不思議に思ってその足跡を追っていくと、辿りついたのは何だか見たことのある家です。
「ここは僕達の家じゃないか!」 驚いたぐりとぐらは、さっそく自分達の家に上がり込んでみますが、家には見慣れない持ち物があちこちに置かれています。

普段帽子をかけているところにはぐりぐら2人がすっぽり入ってしまいそうなほど大きな帽子が、普段コートをかけているところにも同じくらい大きな赤いコートが先回りして掛かっていました。

ぐりとぐらはこの持ち主を探して、家中を探し回ります…

「ぐりとぐら」シリーズについて

野ねずみのぐりとぐらが主人公の絵本シリーズ。
ぐりとぐらはお料理することと食べることが大好きで、おいしそうなごはんや森の動物たちが絵本に登場することも多い。
おはなしを中川李枝子さんが、イラストを山脇百合子さんが担当されており、お二人は実の姉妹(!)だそう。

現在出版されている「ぐりとぐら」シリーズの絵本は、下記の通り。(上にいくほど古い)

「ぐりとぐら」
「ぐりとぐらのおきゃくさま」
「ぐりとぐらのかいすいよく」
「ぐりとぐらのえんそく」
「ぐりとぐらのくるりくら」
「ぐりとぐらのおおそうじ」
「ぐりとぐらとすみれちゃん」
「ぐりとぐらの1ねんかん」

ハードカバー本。福音館書店。
大人が読んであげるなら4才から、お子さんがご自身で読まれるなら小学校低学年から、が推奨。

「ぐりとぐらのおきゃくさま」の読書感想文

ぐりとぐらの何が好きって、毎回おいしそうなごはんが出てきて、森のみんなと仲良く食べるところなのですが、こちらの本にもその場面は健在です(笑) 相変わらず、かわいらしい!

サンタクロースさんが出てくる真冬のお話ですので、秋くらいから読み始めて理解を深め、お子様がご自分でもクリスマスを迎えてサンタさんやプレゼントを体感する…という読み方が、分かりやすくて楽しいだろうと思います。

ただ、昔の私のように、雪の積もらない暖かい地方に住んでいる子どもは、雪深い世界の寒さや良さを少し理解しづらいかもしれません。
楽しく読めるのに、ぐりとぐらシリーズの他の絵本より印象に残らなかったのは、雪や寒さの与える影響が大きいように思います。雪に慣れ親しんだ大人が読み聞かせる時は、自分の体験を合わせて聞かせ、子どもさんの想像力を少し補ってあげるといいのではないかと思います。

created by Rinker
株式会社 福音館書店
¥1,100 (2024/04/27 15:38:15時点 Amazon調べ-詳細)

「ぐりとぐらのかいすいよく」 あらすじと読書感想文

「ぐりとぐらのかいすいよく」のあらすじ

※ストーリーの前半部分のみを記載

野ねずみのぐりとぐらは、静かな海の波打ち際で、砂遊びをしていました。

2匹は遠くの海に何か光るものが浮いているのを見つけましたが、残念ながら、ぐりもぐらも泳げません。光るものが浜辺に流れ着くのを待ってから眺めてみると、光っていたものは、とうもろこしのかわに包まれた、立派なぶどう酒の瓶でした。

ぶどう酒の豊かな香りを感じるぐりでしたが、ぐらは瓶の中身がワインではないことに気づきます。栓抜きではなく巻き貝をコルク抜きにして、なんとかワイン瓶の栓を抜くと、中に入っていたのは、色違いの小さな浮き輪が2つと、手書きで書かれた地図、それに手紙でした。

手紙には、

 しんせつなともだちへ 
 しんじゅとうだいにきてください 
 うみぼうずより

とメッセージが書かれていました。地図を見る限り、海を南に向かって泳いでいくと、真珠灯台に着くようです。

泳げないぐりとぐらでしたが、浮き輪があれば大丈夫。うみぼうずから貰った浮き輪に空気を入れて、いざ冒険に出発です!

「ぐりとぐら」シリーズについて

野ねずみのぐりとぐらが主人公の絵本シリーズ。
ぐりとぐらはお料理することと食べることが大好きで、おいしそうなごはんや森の動物たちが絵本に登場することも多い。
おはなしを中川李枝子さんが、イラストを山脇百合子さんが担当されており、お二人は実の姉妹(!)だそう。

現在出版されている「ぐりとぐら」シリーズの絵本は、下記の通り。(上にいくほど古い)

「ぐりとぐら」
「ぐりとぐらのおきゃくさま」
「ぐりとぐらのかいすいよく」
「ぐりとぐらのえんそく」
「ぐりとぐらのくるりくら」
「ぐりとぐらのおおそうじ」
「ぐりとぐらとすみれちゃん」
「ぐりとぐらの1ねんかん」

福音館出版。大きさは縦20cm×横27cmで、ハードカバー絵本。
大人が読んであげるなら4才から、お子さんがご自身で読まれるなら小学校低学年から、が推奨。

「ぐりとぐらのかいすいよく」の読書感想文

※ストーリーのネタバレを含みます。問題ない方のみ続きをお読みください。

相変わらず、子ども心をくすぐるシチュエーション満載の絵本でした。

1番好きだったのは、ぐりとぐらが真珠灯台で真珠を探しに行くシーンです。
泳ぎがとても上手で身体も大きいうみぼうずなのに、身体が大きいことがあだになり、大切に守ってきた真珠を取り戻すことができません。しょんぼりするうみぼうずに代わって、小さな小さなぐりとぐらがしっかり真珠を見つけ出してしまうので、読者としては微笑ましかったです。

また、できないことは補い合い、できることは率先して行って友をより良い方向に導いてあげる、という友だちとの理想的な関係を、ぐりとぐらとうみぼうずは自然に築けているように見えます。
友への配慮と信頼が短い絵本の中にあふれているので、読んでいてあたたかく、素直に「いいなあ」と感じました。

海が舞台の絵本なので、春から夏にかけて読むと、より一層お子さんが楽しめそうです。
「ひらめ泳ぎ」や「くじら泳ぎ」、それに豪快な「いるかジャンプ」など、さまざまな泳法がうみぼうず直伝で紹介されていますので、恐らくどのお子さんも、プールや海で真似して泳いでみたくなるのではないかと思います(笑)

created by Rinker
株式会社 福音館書店
¥1,100 (2024/04/27 14:28:05時点 Amazon調べ-詳細)

「チョコレート戦争」(大石真 作) あらすじと読書感想文

1979年初版出版という古い本ですが、小学校高学年の頃に好きだった本です。
甘い洋菓子がたくさん登場しますが、子どもたちが自分たちを信じてくれない大人たちと戦うストーリーです。

「チョコレート戦争」のあらすじ

※ストーリーのさわりの部分のみ記載

すずらん通りにある洋菓子店「金泉堂」は、東京のお菓子にも負けないくらいおいしいと、大人から子どもまで街中の人々に評判のお店でした。

金泉堂には、シュークリームやエクレアなどの売り物のお菓子とは別に、生クリームやウエハースなどの洋菓子の材料だけで作られた、高さ1m近いチョコレートのお城があります。そのお城は、金泉堂のショーウィンドウに毎日燦然さんぜんと飾ってありました。

ですがある日、チョコレートのお城のショーウィンドウが、何者かに割られてしまいます。ショーウインドウのガラスが割れた時、チョコレートのお城を眺めていたのは、明と光一という2人の小学生の男の子でした。

何が起きたか分からず反射的に逃げようとした2人は、金泉堂の店員に取り押さえられ、運悪く明が改造した空気銃を手にしていたため、金泉堂の社長や支配人から犯人扱いされてしまいます。明も光一も「やってない!」と訴えますが、信じて貰えず、「店の顔であるショーウィンドウを割るとは、重大な名誉毀損めいよきそんだ」と頭から叱られるばかりです。
幸いにも、学校に残っていた優しい桜井先生にその場は取りなして貰えましたが、金泉堂の大人たちは最後まで、明と光一を信じることはありませんでした。

翌日の放課後になっても腹立ちが収まらなかった光一は、ある作戦を思いつき、明に打ち明けます…。

「チョコレート戦争」の説明

大石真 作、北田卓史 画。
定価390円、理論社フォア文庫。
1979年10月第一刷発行、1987年9月第37刷発行。

小学校中・高学年向け。

「チョコレート戦争」の読書感想文

※ストーリーのネタばれを含みます。問題ない方のみ続きをお読み下さい。

この本、まず題名がいいですよね。チョコレート戦争。何ともおいしそうな戦いです。洋菓子店が出てくるとあって、作中に登場するイチゴ入りシュー・ア・ラ・クレームもエクレールもおいしそうなものばかりです。


↑ 日本でもお馴染みのシュークリーム。フランス語では「chou à la crème(シュー・ア・ラ・クレーム)」になります。

でも大人に信じてもらえなかった子どもたちは、必死です。自分たちの無実を分かってもらうために、授業そっちのけで計画を立て、みんなで力を合わせて行動に移していきます。大人顔負けの度胸を持つ光一は誰もがあっと驚くような方法を、意志が弱く慎重派な明は自分にできる最良の方法を選択し、それぞれのやり方で大人に一矢報いっしむくいようとします。同じ小学生として、登場人物のみんなを全力で応援しながら読んでいました。

そして、多分私を含む子どもはみんなこの本のラストが大好きだと思うのですが、お話の最後に、大人達がお詫びとしてとってもいきなことをしてくれるんです。
その粋な計らいが洋菓子好きの子どもにはうらやましく、「いいなあ、こんな街住みたいなあ」と子どもながらによく思っていました。

↑ 「éclair」を英語読みすると「エクレア」、フランス語読みすると「エクレール」になります。
エクレールは、シュー・ア・ラ・クレームの一種(!)なんだそうです。

大人になって改めて読み返してみて、ラスボス的位置づけである金泉堂の社長「谷川金兵衛」氏について、社長が青年だった頃のエピソードが記載されている点が、この小説の魅力を跳ね上げていることに気づきました。

信じてくれない大人の代表格である谷川金兵衛氏ですが、決して悪い人ではなく、真面目で、努力家で、曲がったことが決して許せない人あることを、読者は青年時代のエピソードを通して知ることになります。年をとるにつれ、疑り深くなり、素直で真っ直ぐな心を持ったこどもでさえ信じることができなくなっているだけなのです。その冷えきってしまった心は、金兵衛氏の恩人であり、人を信じる気持ちを失くしてしまっていたハリーさんの姿とも重なり、より一層哀しさを感じます。

そんな大人達の冷えた心を、物語のラストで子ども達と青年が見事にあたためなおしてしまうので、大人の側から見ても、癒しと救いのある小説だなあと感じました。

読書感想文をどう書いたらいいか困ったら

この記事は、夏休みの時期(7月~8月)に見て下さる方がとても多いので、お子さまが読書感想文を書く時のヒントになりそうなことを少し書きます(笑)

明や光一の立場に立たされた時、自分ならどう行動するか

子どもらしくて面白い読書感想文を書くなら、「自分が光一や明の立場ならどうするか」がイチオシです。大人が思いもつかないようなアイディア満載まんさいの作戦や、斬新ざんしんな行動がいっぱい出てくると思うので、わくわくしながら読書感想文を書けるし、読む人も楽しめると思います(笑)

何が失敗と成功を分けたのかを考える

光一の計画&行動と明の行動を比べた時、光一の計画は計画的でかっこよくて、金兵衛氏を確かにぎゃふんと言わせられそうな、素晴らしいものに思えます。ですが、実際に金兵衛氏をぎゃふんと言わせたのは、明の行動の方でした。一体どうしてでしょう?

明が計画を1人で抱えきれなかったことも理由の1つですが、明の行動にはあり、光一の行動には足りなかったものもいくつかあります。光一の行動と明の行動を比べてみて、「これだ!」と思うものがあれば、みんなに分かるように、感想文に書いてみてはどうでしょう?

誰かを中心に据えて、感想文を書いてみる

「チョコレート戦争」は登場人物も多く、それぞれの登場人物がさまざまな立場から物語に参加しているので、観察力と想像力をフル稼働かどうすると、登場人物の気持ちを読み解くことができます。

トラック運転手のあにき(義治さん)に注目する

金泉堂のシュークリームが1つ80円もするのに、ラーメン屋で1杯50円のラーメンを、それも夕方近くになってからすすっているトラック運転手の2人は、恐らく決して裕福な人ではないのでしょう。金泉堂に名乗り出れば、叱られた挙句あげく、お昼ごはん代の何倍もお金のかかるショーウィンドウガラス代を、弁償べんしょうしなければならなくなります。

それでも仕事を中断ちゅうだんしてまで名乗り出ることにしたのは、トラック運転手義治さんが子どもを思う気持ちや、誠実さ、道徳心や倫理観りんりかんを持っている若者だったからでしょう。

読書感想文を書く子どもさん達は、自分が義治さんの立場だったら、きちんと名乗り出ることができるかな?

チョコレートのお城(実物)が見られる場所

小説に登場するチョコレートのお城を実際に見ることは出来ませんが、別の方の作られたチョコレートのお城は、運が良ければ、見たり食べたりすることができます。

ディズニーホテルのクリスマスパーティでは、ディナー会場にチョコレートのお城が飾られていることがあるそうです。また、百貨店のスイーツ売り場や、腕のいい地元のケーキ屋さんのショーウィンドウにも、展示されていることがある様子。ケーキ屋さんによっては、誕生日やパーティ向けに、チョコレートの城を普段から作られている方もいらっしゃるそうです。

「チョコレート戦争」を読んだ後に、見れるものなら是非、一度本物のチョコレートの城を見てみたいものですね。

created by Rinker
理論社
¥1,320 (2024/04/27 01:04:08時点 Amazon調べ-詳細)

↑ 新書と単行本の2種類が売られていますが、新書の方がお安いです。
古い本なので、お近くの市立図書館にも置かれていると思います。

「そらいろのたね」(なかがわりえこ 著) あらすじと読書感想文

「ぐりとぐら」の作者のお2人が作られた絵本です。

「そらいろのたね」のあらすじ

※ストーリーのさわりの部分のみを記載

ゆうじ君の宝物は、模型の飛行機でした。ゆうじ君がたんぽぽの咲いている野原でその飛行機を飛ばしていると、きつねがやってきて、飛行機を頂戴とねだりました。

ゆうじ君が、これは僕の宝物だからあげない、と断るときつねは、それじゃあ僕の宝物の交換して、と言い、ポッケからそらいろのたねを取り出したので、ゆうじ君は飛行機と種を交換しました。

ゆうじ君はそらいろのたねを庭の花壇に蒔き、じょうろでお水をあげました。すると翌日、そらいろのたねを蒔いたところから、小さな小さな空色の家が生えてきました。家には小さなドアと窓と煙突がついています。ゆうじ君は喜んで、せっせとお水をやりました。

そらいろのいえは少しずつ大きくなり、ある日ひよこが、ゆうじ君の育てたそらいろの小さなおうちを見つけ、「ぼくのうちだ」と思い、住み始めました。そらいろのいえがもう少し大きくなると、今度は猫が見つけ、「わたしのうちだわ」と思い、ひよこと一緒に仲良く住み始めました…。

「そらいろのたね」の説明

「ぐりとぐら」シリーズを作られた、なかがわりえこさん&おおむらゆりこさんのコンビで作成された絵本です。文章はなかがわりえこさんが、イラストはおおむらゆりこさんが担当されており、お2人は実の姉妹(!)です。絵本「そらいろのたね」には、ほんの少しだけ、ぐりとぐらも登場します。

福音館書店出版。1979年5月に改定版第1刷、2008年7月に改定版第94刷。
定価800円(税別)。

読み聞かせは4歳から、お子さんがご自分で読まれるなら小学校初級~ が推奨。

「そらいろのたね」の読書感想文

※ストーリーのネタばれを含みます。問題ない方のみ続きをお読み下さい。

楽しくおいしく可愛らしい「ぐりとぐら」シリーズとは少し毛色が違い、可愛らしい中に教訓めいたものが仄かに香る絵本でした。



芽(?)を出したばかりのそらいろのいえは、大変小さく可愛らしかったです。子どもが踏んづけたら壊れそうなくらいの小ささで、ひよこさんが1匹だけ入ることができます(笑) でも四角い窓と円い窓がついていて、窓は大きく広々としていて、何だか居心地の良さそうな雰囲気を醸し出していました。
おうちのサイズ感といい雰囲気といい、見事に私のストライクゾーンで、ひよこさんごと我が家に持ち帰りたくなるようなおうちでした(笑)



そんなそらいろのおうちが大きくなり、1匹の強欲なきつねさんに支配されてしまった時、私は学生時代に学んだパレスチナとイスラエルを思い出しました。

パレスチナは、地中海の東側にある面している土地で、キリスト教とイスラム教とユダヤ教という三大宗教の聖地が、僅か1平方キロメートルに納まってしまっているという、世界的にも稀有な街エルサレムを有しています。

昔はどの宗教の方もパレスチナの地で平和に共存していたそうなのですが、20世紀に入ったあたりからユダヤの方が移住し始め、20世紀半ばにユダヤの方がパレスチナの地にイスラエルという国を作ってしまってからは、その地に住めなくなったイスラム教徒との、争いが絶えない土地になってしまいました…。



何かを求めて行動した結果、他の方と平和に共存出来なくなってしまったのはユダヤの民だけではありませんが、欲に駆られて何かを求めた時は、そらいろのいえが太陽に向かって膨らみ始める時なのかもしれません。

そらいろのいえは植物のような存在で、窓を閉め切ってしまうと息(光合成?)ができなくなってしまうのか、強欲な動物には支配できないからなのか、いえが壊れてしまった理由は、本書では明かされていません。でも、そらいろのいえが膨らみ始めた時、ドアや窓を開けてもう一度みんなを招き入れていれば、そらいろのおうちは壊れなかったんじゃないかな、と感じます。

そらいろのいえは、色といい、住んでいる人や動物の数と種類の多さといい、地球によく似ています。綺麗で住み心地のいいおうちが壊れてなくなってしまわないよう、注意しようね、という願いが込められた絵本なのかなあ、と思いました。

created by Rinker
株式会社 福音館書店
¥1,100 (2024/04/27 05:57:12時点 Amazon調べ-詳細)

「11ぴきのねこ」(馬場のぼる 著) あらすじと読書感想文

「11ぴきのねこ」は、お子様に必ず一度は通っておいてほしい道です(笑)

「11ぴきのねこ」のあらすじ

※前半部分のあらすじのみを記載

あるところに、11匹ののらねこがいました。ねこ達はいつもおなかをすかせていました。

ある日11匹のねこは、小さな魚を1匹捕まえました。小さな魚に我先に飛びつこうとする猫たちでしたが、とらねこ大将は「我々11匹は仲間なんだ」とたしなめます。とらねこ大将は、小さな魚を11つにきちんと切り分けました。小さな魚は、しっぽだけ、ひれだけ、めだまだけと更に小さくなってしまいましたが、11匹の猫はみんなで輪になって、どれを食べようかと神妙に吟味しました。

そこに年老いた髭の長い猫がやってきて、「大きな魚が食べたいか」と11匹の猫たちに尋ねます。じいさん猫は「山を越えたずっと向こうに大きな湖がある。その湖には、怪物のように大きな魚が棲んでいる」と、身振り手振りを交えて教えてくれました。みんなで力を合わせれば、どんな魚もきっと捕まえられる。そう信じて、11匹の猫は湖へ向かいました。

野山を越えてやっと辿り着いた湖で、11ぴきの猫は筏を作って3日間探しましたが、大きな魚は見つかりません。湖にある島に上陸して更に待っていると、ある日突然、大きな魚が水面から飛び出しました。ねこたちが一口で呑まれてしまいそうなくらい、口も体も大きな魚です。

11匹の猫は「ニャゴー ニャゴ ニャゴ」と飛びかかり捕まえようとしますが、大きな魚にあっさり蹴散らされてしまいます。
今のままではとても歯が立たないことに気付いた11匹の猫たちは、大きな魚を見張りながら、身体を鍛え、作戦を練り始めます…。

「11ぴきのねこ」シリーズについて

とらねこ大将率いる11匹の猫たちが、さまざまな冒険やチャレンジをするお話。11匹の猫たちは勇敢でわんぱくだが、失敗も多く、総じて可愛らしいストーリーが多い。
現時点で7冊出版されている。発行された本は、下記の通り。(下にいくほど新しい本)

「11ぴきのねこ」
「11ぴきのねことあほうどり」
「11ぴきのねことぶた」
「11ぴきのねこ ふくろのなか」
「11ぴきのねことへんなねこ」
「11ぴきのねこ マラソン大会」
「11ぴきのねこ どろんこ」

「11ぴきのねこ」は、1967年4月第1刷、2014年3月第173刷(!)。
縦26.5c×横19cmのハードカバー絵本。
定価1200円(税抜)。こぐま社出版。

「11ぴきのねこ」の読書感想文

※ストーリーのネタばれを含みます。問題ない方のみ続きをお読みください。

「11ぴきのねこ」はストーリーのオチが秀逸すぎます。幼い頃読んだ時は、オチのインパクトが強すぎて、前半・中盤の良さに目が行きませんでした(笑)

でも、この絵本の良さは、オチではなくストーリー全体だったんだ、と大人になって読み返した時に気付きました。リーダーとらねこ大将を中心に、ねこたち11匹はよくまとまり、遠く離れた湖まで冒険して、みんなが束になっても叶わなかった「おおきなさかな」を最後には作戦勝ちで捕えてしまいます。標的にされてしまった「おおきなさかな」には気の毒ですが、力では勝てない獲物を団結力と知恵でカバーして勝ってしまったところは、やっぱりちょっとカッコ良かったです。

また、おじいさん猫の助言に11匹全員が素直に従うところといい、「おおきなさかな」をじっくり観察して作戦を練るところといい、一度失敗しても再チャレンジして成功するところといい、生きていく上で必要となる教訓のようなものが、短いストーリーの中に含まれています。
学校教育において「生きる力」の必要性が叫ばれて久しいですが、「生きる力」を「今自分が置かれている境遇に負けず、自分の未来を自分たちの力で切り開いていく力」と仮定するならば、この「11ぴきのねこ」の絵本には「生きる力」のかけらが含まれているのではないか、と読んでいて感じました。

created by Rinker
子どもの文化普及協会
¥1,320 (2024/04/26 19:08:31時点 Amazon調べ-詳細)