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「オリエント急行の殺人」(アガサ・クリスティ) 読書感想文

英国が世界に誇る、推理小説の名作。実際に読んでみるまで、こんなにも切ないお話だとは知らなかった。

「オリエント急行の殺人」のあらすじ

※ストーリーの最初の41ページ分のみを記載

ベルギー人私立探偵のエルキュール・ポアロは、フランス陸軍での事件を解決し、若いフランス陸軍中尉に見送られて朝5時に極寒のアレッポ駅からタウルス急行に乗り込み、イギリスへの帰路についた。

タウルス急行で何時間か仮眠を取った後、ポアロが熱い珈琲を飲むため食堂車に赴くと、食堂車に客は家庭教師風の若い女性1人しかいなかった。その女性は、自分の面倒は全て自分で見られるような自立した女性で、冷静で頭の切れる人だとポアロは感じた。そのうち、彼女の向かいの席にインドから来たイギリス人のアーバスノット大佐がやってきたが、2人はぎこちなく、二三言葉を交わす程度だった。

昼食で女性–ミス・デベナム–と大佐は少し打ち解けた様子を見せたが、その日夜、列車が停車した際にポアロが駅へ降り立つと、プラットホームの端で、彼女に「メアリ」と呼びかける大佐と、「今はだめ。何もかもがすんでから」と返す2人の会話を耳にする。

翌日、食堂車から火が出てタウルス急行が予定外に停車した際、ミス・デベナムは取り乱し、何としても九時発のシンプロン・オリエント急行に乗らねばならないのだ、と訴える。だが彼女の心配は杞憂に終わり、タウルス急行は5分遅れで目的地ハイダパシャへと到着した。その後ポアロは、ミス・デベナムともアーバスノット大佐とも顔を合わせず仕舞いだった。

その日ポアロはオリエント急行には乗り継がず、トカトリアン・ホテルに宿泊する予定だった。だが、1通の電報が舞い込み、急ぎロンドンへ帰るよう促されてしまう。ポアロは九時発のシンプロン・オリエント急行で帰るようホテルに手配して貰い、食堂で食事に取りかかった。そこで偶然にも、国際寝台車会社の重役でありポアロの旧友でもある、ムッシュー・ブークに出会う。そしてブークと別れた後、一見心優しい慈善家風の、だが、眼だけが狡猾そうで落ち着きなく辺りを見回している奇妙な男を見かけた。その男は初老で、感じのいいアメリカ人の秘書を連れていた。

ラウンジでブークと落ち合ったポアロだったが、ホテルの者が、今夜に限って何故かオリエント急行の一等は全て満室である、と告げに来た。重役としての立場を使ってブークがオリエント急行の一等ー寝台の提供を請け合ってくれ、ブークとポアロはオリエント急行の発車駅へと向かう。駅に着いても、やはり九時発のオリエント急行一等寝台車は予約で全て満室だったが、発車間際になっても現れない乗客の部屋をブークはポアロにあてがってしまい、ポアロは無事にオリエント急行の乗客となった。

「オリエント急行の殺人」の読書感想文

※本作品とアガサクリスティ「カーテン」のネタバレを含みます。問題ない方のみ続きをお読み下さい。

遺族の苦しみ

殺されたり自殺に追い込まれたりして、命を落とした犯罪被害者の方々。その方々ご本人の苦しみは筆舌に尽くしがたいものだったと思うが、この小説で焦点になっているのは、家族が犯罪に巻き込まれ、家族の1人ないし複数人を理不尽に失った遺族の方々だ。

犯罪に巻き込まれ突如理不尽にも家族を失った人々は、遺族は加害者への怒りと憎しみ、遺された苦しみや辛さを味わい続ける。
しかも、加害者は法の下で正当に裁かれず、遺族のような苦しみを味わうことなく、社会的制裁を受けることもなく、被害者の命を元手に巻き上げた大金で悠々自適の海外暮らしをする。

社会通念上、このような理不尽が許されていいのだろうか、という命題を本書は投げかけている。

法で裁くことのできない犯罪

法で裁くことのできない犯罪という命題は、アガサクリスティの作品で時折見受けられる。ポアロ氏最後の推理「カーテン」もその一つで、こちらも印象的だが、私はオリエント急行の方に、より強く苦しみと悲しみを感じた。

加害者が何の苦もなく暮らし、遺族が苦しみ続けるということは、社会通念上あってはならないが、司法や法律の世界ではありえてしまう。

法で出せなかった答えを、誰がどう出すか。名探偵の出した答えの1例が「カーテン」であり、遺族の出した答えの1例が、この「オリエント急行殺人事件」だと思う。

どちらのケースも、数ある答えの中の1つでしかない。この2例以外にも、無数の答えがある。
だが、オリエント急行の遺族達が出した答えは、間違っているとは心情的に言い難い。法に従うべき一市民としてはあってはならないのだろうが、この小説を読み、法を遵守しきれなかった遺族達を糾弾できる人は、人であって人でないような心持ちがする。

「素晴らしい」と手放しでは言えないが、「よくやった、もう苦しまなくていい」と伝え、ねぎらってやりたい。そんな気持ちになる。

ポアロ氏の2つの解答

なので、我らが名探偵ポアロ氏の提出した2つの解答には、喝采をあげたい気持ちになった(笑)

本文を読み始める前に目次に目を通した際、最終章が「ポアロ、2つの解答を提出する」と書かれており、「?」となったが、読後は遺族全員と鉄道会社の両方に配慮したポアロ氏の解答に痺れた。

テレビドラマ版「オリエント急行殺人事件」

名探偵ポアロシリーズは、アガサクリスティの原作とデヴィッド・スーシェ主演のTVドラマシリーズの両方を楽しむ派なのだが、本作のTVドラマ版は映像が恐ろしく美しかった。

オリエント急行の内装の美しさもさることながら、オリエント急行を彩る風景の美しさは、言葉では表現しがたい。暮れゆく日、降りしきる雪、雪深い景色に立つ人々…。

原作から多少ストーリーが変えられており、原作であれほどのインパクトを放ったミセス・ハバードの出番が少ないのが少々気になるが、それを差し置いても一見の価値ありである。

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「月の影 影の海」(十二国記シリーズ) (小野不由美 著) あらすじと読書感想文

小学校高学年から大学生くらいまでの、女の子におすすめしたい小説。中学2年から現在に至るまで、私の理想の女性像は、この小説の主人公が不動の地位を占めている(笑)

 

「月の影 影の海」のあらすじ

※物語の最初の部分だけを記載

現代日本でごく普通の女子高生として生きていた主人公陽子は、ある日突然、学校に現れた見知らぬ金色の髪の男性に、異世界へと連れて行かれてしまう。

辿り着いた先の異世界で右も左も分からぬまま、陽子はさまざまな人々に騙され、裏切られ、警吏や獣に追われて危害を加えられながらも、元の世界に帰ることだけを夢見て、剣とわが身ひとつで生き延びようとするが……。

十二国記シリーズの説明

出版当初は講談社ホワイトハート文庫という10代向けライトノベルズとして刊行されたが、作者の筆力と構想のクオリティがあまりに高く大人の読者が続出したため、のちに講談社文庫からも刊行されることとなったという、折り紙つきの本(笑)
表紙・挿絵は、出版当初から変わらず山田章博さんが手がけている。

現在新潮社から発売されている十二国記シリーズの書籍は、下記の通り。(下にいくほど新しい)

「月の影 影の海」(上巻・下巻)
「風の海 迷宮の岸」(上巻・下巻)
「東の海神 西の滄海」
「風の万里 黎明の空」(上巻・下巻)
「図南の翼」
「黄昏の岸 暁の天」(上巻・下巻)
「華胥の幽夢」(短編集)
「丕緒の鳥」(短編集)
「白銀の墟 玄の月」(1~4巻)

また、「魔性の子」も十二国記シリーズの関連書籍。

新潮社の十二国記公式サイト
 http://www.shinchosha.co.jp/12kokuki/

「月の影 影の海」の読書感想文

私がこの本を読んだのは14歳の時で、ティーンズ向けのホワイトハート文庫から出版されたものを市立図書館で偶然見つけ、白い表紙に魅かれて借りて帰った。
その後、この十二国記というシリーズの本を図書館で探し出しては1冊ずつ読み、何度も読み耽り、昼食を食べずに浮かせたお金で数百円を絞り出しては、1冊ずつ手元に買い揃えた。その時揃えた十二国記シリーズは、20年以上人生の様々な激動を味わった後も、変わらず私の手元にある。

14歳の時から本の中身は一字一句変わっていないはずだが、大人になってから読み返しても作品の良さは衰えなかった。何年経っても折に触れ読み返し、そのたびに陽子に出会い、楽俊に出会い、今読んでいるページの続きを読みたいと感じる。
十二国記シリーズは出版された冊数こそ少ないが、いつどの1冊を読み始めても、同じような気持ちを味わう。

骨太な本は人ひとりの人生そのものに寄り添って、長い年月を共に歩んでくれるので有難い。14歳でこの本と出会えたのは、本当に僥倖だったと思う。

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「東の海神 西の滄海」(十二国記シリーズ) (小野不由美 著) あらすじと読書感想文

「東の海神 西の滄海」のあらすじ

※物語の始めの部分のみを記載

蓬莱の国の都は戦乱で燃え尽き、焼け跡と骸が大地を覆っていた。そこに生まれた4才の子は口減らしのため生きたまま山に遺棄される。そこから遠く隔たった常世の国でも、ムラが焼け荒れ果てた地に1人の子がまた棄てられた。
戦乱と飢餓の末棄てられた2人の子どもは、後に運命的に巡りあうことになる。

先王が民に万苦の苦難を与え、生きとし生けるものが死に絶えたかのように荒廃した延国では、新王尚隆を迎え、ようやく復興の兆しが見えようとしていた。だが、新王も新王を選んだ神獣たる延麒六太も、家臣の隙を見ては政を放り出し、下界等で賭博や遊興に興じることが多かった。

そんな折、延国の統べる9州のうちの1州元州が謀反を企てているという知らせがもたらされる。忠臣総出の叱責ののちにようやく朝議に顔を出した延麒は、朝議の最中呼び出され、18年前1度だけ出会った不思議な少年更夜と再会を果たす…。

十二国記シリーズの説明

出版当初は講談社ホワイトハート文庫という10代向けライトノベルズとして刊行されましたが、作者の筆力と構想のクオリティがあまりに高く大人の読者が続出したため、のちに講談社文庫からも刊行されることとなったという、折り紙つきの本です。

現在発売されている十二国記シリーズの書籍は、下記の通り。(下にいくほど新しい)

「月の影 影の海」(上巻・下巻)
「風の海 迷宮の岸」(上巻・下巻)
「東の海神 西の滄海」
「風の万里 黎明の空」(上巻・下巻)
「図南の翼」
「黄昏の岸 暁の天」(上巻・下巻)
「華胥の幽夢」(短編集)
「丕緒の鳥」(短編集)
「白銀の墟 玄の月」(1~4巻)

また、「魔性の子」も十二国記シリーズの関連書籍。

新潮社の十二国記公式サイト
 http://www.shinchosha.co.jp/12kokuki/

「東の海神 西の滄海」の読書感想文

延国の話が、この小説のメインストーリー。だが、もうひとつの国のストーリーが、影のように延国のストーリーに寄り添いながら、物語が紡がれていく。

ふたつの国の崩壊と再生に主人公2人の過去を絡めながら、物語が進んでいくという構成が本当に見事。日本の室町時代の戦現在の国の内乱を真正面から肉厚に書き込んで下さっているところは、他のライトノベルズにはない大きな魅力だと思う。

新旧2つの物語が同時進行しますが、どちらの結末も気になり、学生の頃は時間を忘れて読み耽った。社会人になった今でもこの本は鬼門で、一度手に取ったが最後寝食忘れて貪り読んでしまうため、家族からの評判だけがすこぶる悪い(笑)

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「ベートーベン―運命の大音楽家」(高木卓 著) あらすじと読書感想文

子どもの頃に繰り返し読んだ伝記からもう一冊。音楽にひたむきに打ち込むベートーベンの生涯が、読む人の心をとらえて離しません。

「ベートーベン―運命の大音楽家」のあらすじ

声楽を仕事とする飲んだくれの父親に育てられたベートーベン。
父ヨハンはベートーベンを、13歳で神童と呼ばれたモーツァルトのようにしたくてたまらず、まだ8才にもならないベートーベンを夜中の2時でも気にせず叩き起し、初見でピアノを演奏させたり、演奏の途中に転調を何度も入れて弾かせたりと、熱心すぎるほどのレッスンを行います。

ベートーベンは、父は自分を見世物のようにしてお金を稼ぎたいだけなのだと気付いていましたが、母の苦労を間近で見続けていることもあり、小学校まで辞めさせられても音楽から逃げることが出来ません。
父の熱心な教育の甲斐もあり、持ち前の才能をぐんぐん伸ばしたベートーベンは、11才にして宮廷音楽士として働き出し、作曲した曲を楽譜として出版し、貴族や侯爵の家でピアノを教えるようになります。

ですが音楽に打ち込む日々の中、恐ろしいことに、ベートーベンの耳は徐々に聞こえなくなっていきました。遺書を書き、一時は自殺まで考えたベートーベンでしたが、もう一度音楽に向き直り、再び素晴らしい曲を生み出していきます。

「ベートーベン―運命の大音楽家」の読書感想文

この本を読んでいた頃はまだ小学4年生くらいで、クラシック曲を聴く習慣がなかったので、どの曲がベートーベンの曲なのか全く分からないまま読んでいました。

ですが、耳が上手く聞こえないのに人から賞賛を受けるほど素晴らしい音楽を作れる、というベートーベンが不思議で、この本をよく読み返していたのを覚えています。
ベートーベンの音楽への情熱は、本当に人の心をとらえて離しません。
音が聞こえなくなることが、音楽家である彼にとってどれほど辛いことだっただろうと思いますが、それでも安易に死に逃げず、音楽をやめなかったベートーベンの姿勢は、時を経てもなお美しいと思います。

大人になり、クラシック曲の持つ音の繊細さと美しさに目覚めてからは、ベートーベンの偉大さがより深く理解できるようになりました。ベートーベンの凄さは、「この曲は本当に、難聴の方が作ったんだろうか…?」という一言に尽きます。交響曲第7番・第9番(歓喜の歌)を好んで良く聴きますが、こんなに複雑で美しい旋律をどうやったら思いつくのかが、まず分からない。ましてや、さまざまな楽器の音を組み合わせて、完成後何百年後を経てなお称賛を受ける交響曲に仕上げる方法は、耳がよく聞こえていても私には創作不能です。

昔には凄い方がいたものだ、と時折本を読み返しては、しみじみ感じています。

「ぽんたのじどうはんばいき」(加藤ますみ 著) あらすじと読書感想文

心あたたまる絵本を1冊。ぽんた君がかわいすぎます。

「ぽんたのじどうはんばいき」のあらすじ

たぬきのぽんた君は、ふもとの村で見かけた自動販売機をとても気に入ってしまい、森に帰って自分も自動販売機を作ろうと思い立ちます。

ぽんた君はたぬきですから、葉っぱを何かに変えるのは、得意中の得意。自動販売機に葉っぱを入れてもらい、お願い事を聞かせてもらえれば、ぽんた君が「ぽぽんのぽん!」で葉っぱを欲しいものに変え、みんなのお願いを叶えてあげられるわけです。

「うえのくちからはっぱを入れて ほしいものをいってください。」

そう書かれたお手製の赤い自動販売機の後ろに隠れ、ぽんた君が待っていると、いろんな動物がやってきて、ぽんた君にお願いを始めました。
でもある動物さんのお願いに、ぽんた君はとても困ってしまいます……。

「ぽんたのじどうはんばいき」の読書感想文

この子たぬきさん、かわいすぎます……。何でこんなにかわいいんでしょう。読んでいて大変癒されます(笑)

自動販売機を作って誰かのお願いを叶えてあげるというその発想がそもそも心優しく、目の前で困っている誰かのお願いを何とかして叶えてあげようとする姿がいじらしいです。何ていい子たぬきさんなんだ。

私のようなすれた大人が1人でもいたら、お金や高級品が欲しいなどとお願いして、かわいらしい子たぬきさんの優しい思いを台無しにしてしまうところです…。

閑話休題。

実家にあったこの「ぽんたのじどうはんばいき」は、実兄が幼稚園であまりに読み耽っていたので、卒園式の時に幼稚園の先生がプレゼントしてくれた本だったそうです。

その後成長した兄は見事な世話焼きに育ち、最後には生涯を人のために尽くす医療の仕事に就いたところを鑑みると、ある意味、実兄はこのぽんた君そのものです。
絵本とは、幼い子どもの心を形作り人生さえ影響を及ぼしてしまうという、とても力のあるものなのですね。

小さい頃好きだった本に寄り添うような人生を人は知らず知らずのうちに選ぶ、というのが私の仮説なんですが、今のところ、大きく外れてはいないなあ、という印象です。

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「しろくまちゃんのほっとけーき」 (わかやま けん 著) 読書感想文など

もうすぐ2歳になる姪が大好きな絵本です。

「しろくまちゃんのほっとけーき」の説明

しろくまちゃんがお母さんといっしょにホットケーキを作る絵本です。

冷蔵庫を覗いてたまごを取りだし(その際しろくまちゃんはたまごを1つ落として割ってしまいます)、ボウルをごとごと鳴らしながらたまごと小麦粉とおさとうを頑張って混ぜます。フライパンに流し入れたら、焼き上がるまで、リズミカルな音に耳をすませたり、ちょっと覗いて焼き加減を確かめてみたりします。
焼き上がったらお友達のくまちゃんを呼んで、みんなでいっしょにあつあつのホットケーキをいただきます。

「しろくまちゃんのほっとけーき」の読書感想文

絵本にリズミカルな擬音語が溢れています。
主人公のしろくまちゃんがたまごをボウルに割り入れる場面では「ぽたぁん」、ホットケーキが焼けるまで待つ場面では「どろどろ」「ぴちぴち」「ふくふく」など、絵本全体にリズミカルな言葉が多く散りばめられています。

実際に声に出して読んでみると、子どもに読み聞かせる経験の少ない大人(=私)が読んでも、リズム良く楽しく読める言葉が選ばれていました。それをじっと聞いている子どもも、お気に入りの言葉とページが出てくるたびにきゃっきゃと楽しそうな声をあげ、笑顔を見せてくれますので、子どもの耳にも聞き心地のよい言葉なのだと思います。

何度も読み聞かせましたが、姪はこの本を読み終わるたびに、小さい手でまたこの絵本を差し出してきて、大人にもう一回読ませようとします(笑) ホットケーキを作るだけというとてもシンプルなストーリーですが、子どもにとっては何度も読みたい&聞きたいくらいに、お気に入りの1冊になってしまうようです。

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「ぐりとぐらのおきゃくさま」(なかがわりえこ 著) あらすじと読書感想文

子どもの頃大好きだった「ぐりとぐら」のシリーズから、真冬のお話を1冊。

「ぐりとぐらのおきゃくさま」のあらすじ

※ストーリーの前半部分のみを記載

冬の雪深い森に入ったぐりとぐらは、ぐりとぐらの背丈ほどもある大きな足跡を見つけます。不思議に思ってその足跡を追っていくと、辿りついたのは何だか見たことのある家です。
「ここは僕達の家じゃないか!」 驚いたぐりとぐらは、さっそく自分達の家に上がり込んでみますが、家には見慣れない持ち物があちこちに置かれています。

普段帽子をかけているところにはぐりぐら2人がすっぽり入ってしまいそうなほど大きな帽子が、普段コートをかけているところにも同じくらい大きな赤いコートが先回りして掛かっていました。

ぐりとぐらはこの持ち主を探して、家中を探し回ります…

「ぐりとぐら」シリーズについて

野ねずみのぐりとぐらが主人公の絵本シリーズ。
ぐりとぐらはお料理することと食べることが大好きで、おいしそうなごはんや森の動物たちが絵本に登場することも多い。
おはなしを中川李枝子さんが、イラストを山脇百合子さんが担当されており、お二人は実の姉妹(!)だそう。

現在出版されている「ぐりとぐら」シリーズの絵本は、下記の通り。(上にいくほど古い)

「ぐりとぐら」
「ぐりとぐらのおきゃくさま」
「ぐりとぐらのかいすいよく」
「ぐりとぐらのえんそく」
「ぐりとぐらのくるりくら」
「ぐりとぐらのおおそうじ」
「ぐりとぐらとすみれちゃん」
「ぐりとぐらの1ねんかん」

ハードカバー本。福音館書店。
大人が読んであげるなら4才から、お子さんがご自身で読まれるなら小学校低学年から、が推奨。

「ぐりとぐらのおきゃくさま」の読書感想文

ぐりとぐらの何が好きって、毎回おいしそうなごはんが出てきて、森のみんなと仲良く食べるところなのですが、こちらの本にもその場面は健在です(笑) 相変わらず、かわいらしい!

サンタクロースさんが出てくる真冬のお話ですので、秋くらいから読み始めて理解を深め、お子様がご自分でもクリスマスを迎えてサンタさんやプレゼントを体感する…という読み方が、分かりやすくて楽しいだろうと思います。

ただ、昔の私のように、雪の積もらない暖かい地方に住んでいる子どもは、雪深い世界の寒さや良さを少し理解しづらいかもしれません。
楽しく読めるのに、ぐりとぐらシリーズの他の絵本より印象に残らなかったのは、雪や寒さの与える影響が大きいように思います。雪に慣れ親しんだ大人が読み聞かせる時は、自分の体験を合わせて聞かせ、子どもさんの想像力を少し補ってあげるといいのではないかと思います。

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「春にして君を離れ」(アガサ・クリスティー 著) あらすじと読書感想文

法律を無視した犯罪はカケラも登場しない。だが、その割にストーリーが残酷すぎると感じるのは、私だけだろうか。

「春にして君を離れ」のあらすじ

※ストーリーの最初の60ページ分のみ記載

有能な地方弁護士の妻であるジェーンは、バグダッドへ嫁いだ末娘の看病を終え、自宅のあるロンドンへ帰宅しようとした途中、鉄道宿泊所の食堂で偶然、聖アン女学院で学友だったバーバラと出会う。

女学院の頃みんなのアイドルだったバーバラが、みすぼらしい服を着、品のない話し方をして、恥も節操もなくあけすけに気ままで無責任極まりない半生を語る姿を見て、ジェーンは驚き、強いショックを受ける。
反面、未だ若々しく、弁護士の妻として家庭や地域コミュニティを切り盛りし、時には夫に変わって理性を働かせてきた自分自身を、改めて誇らしく感じたのだった。

バーバラと別れたジェーンは、列車から車へと乗り換え、次の乗り継ぎ駅であるトルコの国境の駅へと向かうが、車はぬかるんだ道に何度も車輪を取られ、車がようやく駅についたときには、予定していた列車はとうの昔に出発してしまっていた。

駅の鉄道宿泊所で一夜を明かしたジェーンだったが、宿泊所の周辺には太陽と空と砂しかなく、列車も明日まで来ないことを告げられる。
散歩をし、手紙を書き、手持ちの本を読みながら、夫や自分の身に起きた過去の情事を振り返って時間を潰すジェーンだったが、やることがない上に列車も雨でしばらく来ないことになってしまい、次第にロンドンでの日々と自分の家族と自分自身の振る舞いを思い出す時間が長くなっていく…。

「春にして君を離れ」の読書感想文

※ストーリーのネタばれを含みます。問題ない方のみ続きをお読み下さい。

名探偵ポアロシリーズとは随分毛色の違う作品で、推理モノを求める方は肩すかしを食らってしまいそうだ。当初この作品は、アガサ・クリスティではなく、メアリ・ウエストマコット(Mary Westmacott)という別のペンネームで出版され、推理モノを求める読者を失望させないよう、四半世紀近くも著者自ら箝口令を敷き、アガサクリスティと同一人物とは分からぬよう配慮していた、というのだから、本書から立ちのぼる雰囲気の違いにもやや納得である。

本書には、名探偵はおらず、殺人も詐欺も強盗も登場せず、ただイギリスのありふれた家族が二三登場する。だが、私にはこの本のストーリーが残酷で、恐ろしかった。

主人公ジェーンは若々しく、実務的で、自信に満ち溢れており、夫と家族を愛している。有能さとその自信とが、少々鼻につくくらいだ。
だが、列車待ちという手持ち無沙汰の時間が長引くほど、過去の自分と自分の関わった出来事とを思い出し、次第に自分と家族との間に生じた亀裂に距離に気づいていく。
理性を働かせ夫の無軌道を諌めたつもりが、夫の抱えていた夢を無残に突き崩してしまっていたこと、夢破れた夫は家族を守りながらも、勇気ある1人の女性への想いを募らせていたこと、等々…。

問題は、主人公の女性が、夫と家族を心から愛していることだ。多少自己中心的で、言い出したら何としてもやり通すという長所と短所が表裏一体の性格を有してはいるものの、妻として母として理性と愛情をもって長年家庭を切り盛りしていたはずが、実際には、夫の心は離れ、子どもたちからも信頼しては貰えず、真実を知らぬまま、独り道化のような日々を送っていたとは..。
悪意ではなく愛情から出た結果であるが故に、救いがない

物語のラストで主人公ジェーンには、夫に赦しを乞うか、これからも今までどおり過ごすかの二者択一が用意され、主人公はつい後者を選んでしまう。そして夫は、主人公がこれからも孤独に気づかぬようにと願う。
妻も夫も互いに優しく接してはいるが、離れた心は最後まで交わることなく、物語が終わってしまう。残酷だ。

しかも、真面目でよく働く夫に男女3人の子どもという、ありふれた家庭が題材となっているので、「この悲劇は、どこの家庭でも起こり得るものなのでは…」とつい考えてしまう。こうした流血のない悲劇が、時折起きてはニュースにもならぬまま日常に埋没しているかと思うと、下手な殺人事件よりよほど恐ろしい。

読後私は、そっとわが身を省みた。私自身、家族に見捨てられたりしていないだろうか。今は大丈夫だと思うが、良かれと思った愛情が、相手の人生を壊すほど苦しめてしまうということは…忘れない方が良さそうだ。

ロドニーとレスリーの関係

閑話休題。

ロドニーとレスリーの生き様は、よく似ている。農場や土いじりの仕事を愛し、結婚後に伴侶の過ちで苦しみを強られ、家族を守るため自らの心身を削りながらひたすら働いた。
彼らの関係性を考えるとき、シェイクスピアの詩編↓が重要な役割を果たしている。

But thy eternal summer shall not fade
汝が常しえの夏はうつろわず

上記の詩は、10月にロドニーとレスリーが燃え立つように美しく輝く森を眺めているとき、レスリーが呟いた言葉だ。この文章は、シェイクスピアのソネット集18番という、ソネット集の中で最も有名な詩の一部だそうだが、日本人にである私たちには馴染みがない。(作中で、妻ジョーンがソネット18番を夫ロドニーの面前で暗誦してみせ、それ以外にもいくつか詩編を口ずさむ場面がある。英国で十分な教育を受けた女性には、馴染み深い詩なのかもしれない。)

18番は、詩に登場する美しい「あなた」を夏に例えながら、情熱的に「あなた」への想いを歌い上げる詩だ。
全ての美しいものが移ろい色褪せてしまっても、「あなた」はうつろわず、美しさを失うこともない、「あなた」は詩の中で時と溶け合い、永遠に生き続ける。そういう歌らしい。

季節こそ10月だが、美しい風景を見ながらレスリーが、ロドニーの傍らでこの一句を呟く。それは詩という形を借りた、レスリーからロドニーへの愛の告白に思える。だがロドニーはこの詩をよく知らなかったため、自宅に戻り妻に詩の全文を暗唱して貰った後、レスリーを理解しようとする。そしてレスリーが死してなお、レスリーを想い続けるロドニー。

ロドニーもレスリーもお互い妻子のある身だが、それを踏まえても、プラトニックで美しい悲恋だなあ、と感じた。

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「チョコレート戦争」(大石真 作) あらすじと読書感想文

1979年初版出版という古い本ですが、小学校高学年の頃に好きだった本です。
甘い洋菓子がたくさん登場しますが、子どもたちが自分たちを信じてくれない大人たちと戦うストーリーです。

「チョコレート戦争」のあらすじ

※ストーリーのさわりの部分のみ記載

すずらん通りにある洋菓子店「金泉堂」は、東京のお菓子にも負けないくらいおいしいと、大人から子どもまで街中の人々に評判のお店でした。

金泉堂には、シュークリームやエクレアなどの売り物のお菓子とは別に、生クリームやウエハースなどの洋菓子の材料だけで作られた、高さ1m近いチョコレートのお城があります。そのお城は、金泉堂のショーウィンドウに毎日燦然さんぜんと飾ってありました。

ですがある日、チョコレートのお城のショーウィンドウが、何者かに割られてしまいます。ショーウインドウのガラスが割れた時、チョコレートのお城を眺めていたのは、明と光一という2人の小学生の男の子でした。

何が起きたか分からず反射的に逃げようとした2人は、金泉堂の店員に取り押さえられ、運悪く明が改造した空気銃を手にしていたため、金泉堂の社長や支配人から犯人扱いされてしまいます。明も光一も「やってない!」と訴えますが、信じて貰えず、「店の顔であるショーウィンドウを割るとは、重大な名誉毀損めいよきそんだ」と頭から叱られるばかりです。
幸いにも、学校に残っていた優しい桜井先生にその場は取りなして貰えましたが、金泉堂の大人たちは最後まで、明と光一を信じることはありませんでした。

翌日の放課後になっても腹立ちが収まらなかった光一は、ある作戦を思いつき、明に打ち明けます…。

「チョコレート戦争」の説明

大石真 作、北田卓史 画。
定価390円、理論社フォア文庫。
1979年10月第一刷発行、1987年9月第37刷発行。

小学校中・高学年向け。

「チョコレート戦争」の読書感想文

※ストーリーのネタばれを含みます。問題ない方のみ続きをお読み下さい。

この本、まず題名がいいですよね。チョコレート戦争。何ともおいしそうな戦いです。洋菓子店が出てくるとあって、作中に登場するイチゴ入りシュー・ア・ラ・クレームもエクレールもおいしそうなものばかりです。


↑ 日本でもお馴染みのシュークリーム。フランス語では「chou à la crème(シュー・ア・ラ・クレーム)」になります。

でも大人に信じてもらえなかった子どもたちは、必死です。自分たちの無実を分かってもらうために、授業そっちのけで計画を立て、みんなで力を合わせて行動に移していきます。大人顔負けの度胸を持つ光一は誰もがあっと驚くような方法を、意志が弱く慎重派な明は自分にできる最良の方法を選択し、それぞれのやり方で大人に一矢報いっしむくいようとします。同じ小学生として、登場人物のみんなを全力で応援しながら読んでいました。

そして、多分私を含む子どもはみんなこの本のラストが大好きだと思うのですが、お話の最後に、大人達がお詫びとしてとってもいきなことをしてくれるんです。
その粋な計らいが洋菓子好きの子どもにはうらやましく、「いいなあ、こんな街住みたいなあ」と子どもながらによく思っていました。

↑ 「éclair」を英語読みすると「エクレア」、フランス語読みすると「エクレール」になります。
エクレールは、シュー・ア・ラ・クレームの一種(!)なんだそうです。

大人になって改めて読み返してみて、ラスボス的位置づけである金泉堂の社長「谷川金兵衛」氏について、社長が青年だった頃のエピソードが記載されている点が、この小説の魅力を跳ね上げていることに気づきました。

信じてくれない大人の代表格である谷川金兵衛氏ですが、決して悪い人ではなく、真面目で、努力家で、曲がったことが決して許せない人あることを、読者は青年時代のエピソードを通して知ることになります。年をとるにつれ、疑り深くなり、素直で真っ直ぐな心を持ったこどもでさえ信じることができなくなっているだけなのです。その冷えきってしまった心は、金兵衛氏の恩人であり、人を信じる気持ちを失くしてしまっていたハリーさんの姿とも重なり、より一層哀しさを感じます。

そんな大人達の冷えた心を、物語のラストで子ども達と青年が見事にあたためなおしてしまうので、大人の側から見ても、癒しと救いのある小説だなあと感じました。

読書感想文をどう書いたらいいか困ったら

この記事は、夏休みの時期(7月~8月)に見て下さる方がとても多いので、お子さまが読書感想文を書く時のヒントになりそうなことを少し書きます(笑)

明や光一の立場に立たされた時、自分ならどう行動するか

子どもらしくて面白い読書感想文を書くなら、「自分が光一や明の立場ならどうするか」がイチオシです。大人が思いもつかないようなアイディア満載まんさいの作戦や、斬新ざんしんな行動がいっぱい出てくると思うので、わくわくしながら読書感想文を書けるし、読む人も楽しめると思います(笑)

何が失敗と成功を分けたのかを考える

光一の計画&行動と明の行動を比べた時、光一の計画は計画的でかっこよくて、金兵衛氏を確かにぎゃふんと言わせられそうな、素晴らしいものに思えます。ですが、実際に金兵衛氏をぎゃふんと言わせたのは、明の行動の方でした。一体どうしてでしょう?

明が計画を1人で抱えきれなかったことも理由の1つですが、明の行動にはあり、光一の行動には足りなかったものもいくつかあります。光一の行動と明の行動を比べてみて、「これだ!」と思うものがあれば、みんなに分かるように、感想文に書いてみてはどうでしょう?

誰かを中心に据えて、感想文を書いてみる

「チョコレート戦争」は登場人物も多く、それぞれの登場人物がさまざまな立場から物語に参加しているので、観察力と想像力をフル稼働かどうすると、登場人物の気持ちを読み解くことができます。

トラック運転手のあにき(義治さん)に注目する

金泉堂のシュークリームが1つ80円もするのに、ラーメン屋で1杯50円のラーメンを、それも夕方近くになってからすすっているトラック運転手の2人は、恐らく決して裕福な人ではないのでしょう。金泉堂に名乗り出れば、叱られた挙句あげく、お昼ごはん代の何倍もお金のかかるショーウィンドウガラス代を、弁償べんしょうしなければならなくなります。

それでも仕事を中断ちゅうだんしてまで名乗り出ることにしたのは、トラック運転手義治さんが子どもを思う気持ちや、誠実さ、道徳心や倫理観りんりかんを持っている若者だったからでしょう。

読書感想文を書く子どもさん達は、自分が義治さんの立場だったら、きちんと名乗り出ることができるかな?

チョコレートのお城(実物)が見られる場所

小説に登場するチョコレートのお城を実際に見ることは出来ませんが、別の方の作られたチョコレートのお城は、運が良ければ、見たり食べたりすることができます。

ディズニーホテルのクリスマスパーティでは、ディナー会場にチョコレートのお城が飾られていることがあるそうです。また、百貨店のスイーツ売り場や、腕のいい地元のケーキ屋さんのショーウィンドウにも、展示されていることがある様子。ケーキ屋さんによっては、誕生日やパーティ向けに、チョコレートの城を普段から作られている方もいらっしゃるそうです。

「チョコレート戦争」を読んだ後に、見れるものなら是非、一度本物のチョコレートの城を見てみたいものですね。

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↑ 新書と単行本の2種類が売られていますが、新書の方がお安いです。
古い本なので、お近くの市立図書館にも置かれていると思います。