英語で仕事:社内通達文 – The Notification –

仕事が変わってから、仕事で英語を使う時間が、1日平均0時間から1~6時間へと増えた。海外子会社からの問い合わせや利用申請に応じる業務が、私の業務に含まれているためだ。

そんな中、私が時折頂く仕事の1つに、和文英訳がある。日本向けに作られた資料を英語に訳す、という考え方は至ってシンプルな仕事だが、文書の種類別に具体的にどんなことをしているのか、かいつまんでお伝えしてみようと思う。

社内向け通達文 The Notification

通達文とは

勤務先における通達文とは、全社員に伝えたい重要な連絡事項を20~40行のごく短い文章にまとめ、メール形式で配信するものだった。日本の製造業など社員数の多い大企業(特に製造業)で用いられている仕組みで、部長・本部長などお偉いさんの名前を冠し、正社員数万人を対象に伝達される。

業務の難易度高め

今まで請け負ったことのある英語仕事の中では、この公式通達文が最も難しかった。私自身も、どちらかというと苦手である(苦笑)

というのも、英文を作るとき原文(日本語)がある仕事の方が難しいからだ。自分の感覚値では、原文があるだけで仕事の難易度が倍になる。
原文がない場合、自分が普段から使い馴染んでいる語彙・構文で自由に文章を組み立てることができるが、原文がある場合は原文に含まれている意図が正確に伝わるかが何より重要で、欠かすことのできないチェックポイントになる。

そのため自分が普段使うことのない単語、例えば「海外拠点での活用」「申請時審査」のようなビジネスの単語、難解な日本語であっても、原文に忠実に訳す必要がある。
原文の意図を正しく掬う日本語読解力、最低限の業務知識、それに加え一定レベルの英語力が必要とされる仕事だと感じる。

難易度に違わず、この仕事が出来る方はどの企業でもあまり多くないようだ。

日常業務レベルの英語の読み書きができる方はそれなりにいらっしゃるが、原文に忠実に違和感のない英文を作れる方となると、数が絞られてくる。かつ、特定のシステム・プロジェクトに関する訳文となると、ITと業務への理解が必要。そして、翻訳・推敲を重ねるためにまとまった時間が必要となると、お偉い方が英語の出来る平社員を捕獲し、こまごまと説明した上で「やっといて」と丸投げすることになっていても、何ら不思議ではない…。

以前いた部署では、24人のチームのうちこの業務が出来たのは2人だけで、うち1人(=私)の英語力は当時かなりぎこちなかったので、留学帰りでTOEIC895の若い女の子1人が頑張っていた、という状況だった。

品格のある英語で

正式な通達文は、数万人の社員の目に触れる影響力の高い文書なので、日本語の原文を作る段階から推敲とチェックを重ねている。そうして出来上がってきた文書は当然完成度が高く、格式もお高く仕上がる。そんな文書を英語に訳していくのだから、当然、英訳チームも品格のある英語で訳そうと努力を重ねることになる。

実は、この作業がなかなかの骨折りである(笑) 普段は誰でも理解しやすく使いやすい平易な英語を使う機会が多いのだが、公式通達文の翻訳時ばかりは、そうも言っていられない。十二分に時間をかけて、紙の辞書と電子辞書を引きまくり、不明瞭な箇所を1つずつ解消して訳し忘れもないよう、推敲に推敲を重ねて訳していく。

僅か20行の日本語原文を、数日間に渡って翻訳&推敲を繰り返すことも何度かあった。

無駄と骨折りの多い仕事

残念ながら、ようやく全文を訳し上げた後になって日本語原文に修正が入ってしまい、スタート地点に戻ることもよくあった(笑) 
いくらお忙しいとはいえ、お偉い方はどうして人が仕事を仕上げた後になって、仕事を振り出しに戻そうとするんだろうか…。日本企業の無駄は、今日もなくならないらしい(笑)

しかもこうして作られた通達文は、格式高さと正確さを守るため、難易度の高い英単語が多用されていることが少なくない。そのため逆に、世界中のすべての社員が正確に読んでくださるとは限らない、という落とし穴もある。

公式通達文は、挑戦という意味も含めやりがい・達成感の大きい仕事ではあるが、無駄が多く疲労の尽きない仕事であるとも言えると思う。