「魔性の子」(小野不由美 著) あらすじと読書感想文

十二国記シリーズの一作なのに、電灯を消すのが怖くなるほど、ホラー要素の強い小説。だが、エスカレートする怪事件と、次第に逃げ場を無くしていく高里と広瀬が気になって、先を読まずにはおられないかった。

「魔性の子」のあらすじ

※初版本(平成3年発行)のストーリーを、ストーリーのさわりの部分のみ記載

主人公広瀬は、教育実習生として3年弱ぶりに母校の高校へと戻ってきた。3年弱の間に制服は変わり、校舎は街外れへと移転して真新しくなり、校内の地図を見ながらでないとかつて入り浸っていた化学準備室の場所も分からず、広瀬は部外者の様な何のよすがもないところへ来ているような、寄る辺のなさを感じる。それは広瀬が、気が滅入った時に必ず感じる、「帰る場所のない気分」によく似ていた。

特別教室棟の一角に何とか化学準備室を見つけ、実験用具やメモや油絵具が雑然と置かれた場所で教育実習の担当教官であり恩師でもある化学教師の後藤に再会すると、ようやく広瀬の疎外感は薄らいでいった。

後藤に連れられ、担当する2年6組の教壇で出席を取った際、広瀬はクラスに不思議な生徒がいるのを目にする。高里という名のその生徒は、外見は闊達とした成長期の若者のそのものだが、立ち居振る舞いが外見と不釣り合いなほど静かで、不思議と目を引いた。
広瀬自身、高校時代は遅刻欠席の多いはみ出し者の問題児だったが、「広瀬ははみ出したくてはみ出していたが、高里は群れに入りたいのに入れなくてはみ出しているところが違う」と後藤は言う。

教育実習3日目に、高里が1人教室で居残っているのを見かけ、広瀬は高里に話しかけた。その直後、高里の足元を何か獣のようなものが走り抜けていったように広瀬には思えたが、それが何なのかは判然としなかった。翌日の昼休み、かつての広瀬と同様化学準備室にたむろしている学生達に高里の話を向けると、高里と同じクラスの生徒築城から「高里は小学生の頃神隠しに遭っている」「高里には関わらない方がいいんだ」と聞かされる。

実習5日目のホームルームの時間に、2年6組が体育祭の準備をしていると、2年のクラスにやってきた3年の橋上が、神隠しのことで高里をからかう。と、広瀬には、クラスの全員に強い緊張が走ったように思えた。高里の目の前で神隠し情報のリーク元扱いされた築城はやっきになってその事実を否定し、からかい続ける橋上に高里は僅かだが眉をひそめた。

その日の放課後、化学準備室に学級委員が飛び込んで来、体育祭の準備をしていた築城が同級生の扱っていた鋸で脛を切られたと聞かされる。広瀬が保健室に急ぐと築城は既に帰宅した後だったが、養護教諭の十時先生から、同じ日に釘で手を打ちつけた男子生徒がおり、その名前は3年の橋上だと聞かされる…

「魔性の子」の説明

小野不由美さんの代表作、十二国記シリーズの一作。十二国記シリーズは主に異世界を舞台とするファンタジー小説でホラー要素はないが、本書はシリーズの一作ながら、ファンタジー要素よりホラー要素が強い
高里が登場する「風の海 迷宮の岸」(上下巻)と「黄昏の岸 暁の天」(上下巻)とあわせて読むと、本書では多く語られていない高里と十二国の関係をより深く理解できる。

現在発売されている十二国記シリーズの書籍は、下記の通り。(下にいくほど新しい)

「月の影 影の海」(上巻・下巻)
「風の海 迷宮の岸」(上巻・下巻)
「東の海神 西の滄海」
「風の万里 黎明の空」(上巻・下巻)
「図南の翼」
「黄昏の岸 暁の天」(上巻・下巻)
「華胥の幽夢」(短編集)
「丕緒の鳥」(短編集)

新潮社の十二国記公式サイトへは、下記のリンクよりどうぞ。
 http://www.shinchosha.co.jp/12kokuki/

「魔性の子」の読書感想文

本書は、ホラー小説である。ファンタジー小説の要素も含んではいるが、読み進むにつれ、背後を振り返って誰もいないことを確かめないと理由もなく怖いという症状が2~3日続くので、ホラー小説だと思う(笑)

怖いものがあまり得意でない私は普段ホラー小説を読まないが、この一作は高校時代に出会ってから社会人になった現在に至るまで、手元に置き続けている。先日数年ぶりに読み返したが、ストーリーの細部の記憶をなくしていたこともあり、時間を忘れて貪り読んだ。加齢で集中力が途切れがちな昨今、ふと時計を見たら2時間半過ぎていたというのは、貴重な経験である。

小野不由美さんは「東亰異聞」や悪霊シリーズから現在に至るまでホラー小説を書き続けている方だと存じてはいるものの、文から行間から漂ってくる怖さが尋常ではない。0時半までに眠らないと明日の仕事に差し障ると分かってはいるのに、読後布団に入ると電灯を消しづらく、心を決めて電灯を消した後も、闇の中から暗い影が立ち上ってきそうな気がして眠りづらい(笑)

なら平日の夜に読まなければいいじゃないかとお叱りを受けそうだが、会社員は夜しか自由な時間が取れないし、小野不由美さんの作品はどれもすこぶる長いのに読み始めると止まらないので、遅読な人間はいつ読み始めても夜の時間を過ごさざるを得ない(笑) そんなこんなでちょっと困った小説なのだが、忘れた頃にまた読み始めてしまうあたり、自分は好事家を通り越して阿呆じゃないかとさえ思えてくる。それでも、ホラーでもファンタジーでも、小野不由美さんの小説を読めれば幸せなので、もう阿呆でも何でも本望である。

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