健康な人が気管支喘息とハウスダストアレルギーを発症する職場環境

1年前まではごく普通の健康な会社員だったが、勤務先の埃っぽい環境に長く身を置いた結果、ハウスダストアレルギーと気管支喘息が持病になってしまった。

今まで、喘息やアレルギーの既往症はおろか、入院や手術をしたことさえない健康体だったので、どういう条件が揃えば、健康な人がハウスダストアレルギーや喘息を発症してしまうのかをシェア。

なお、 発症に至るまでの経緯や症状を折に触れ人に話すことがあるが、 医師・転職時の面接官・人材コーディネーターの方々・友人・親戚に至るまで、

 「こうした事例は聞いたことがないですね…」
 「本当にいまどきそんな会社あるんですか?」
 「にわかには信じがたい」
 「何回聞いても、大変そう」
 「……(絶句)」

と、驚愕からしみじみとした同情まで、皆様いろいろな反応を返して下さるので、際立って特異な環境に身を置いていたことだけは確かだ。

気管支喘息とハウスダストアレルギーを発症した職場環境

5年以上掃除されていない部屋

私は普段サーバを操作するエンジニアとして働いているが、当時の勤務先(ワークスアプリケーションズ社)に、顧客サーバを遠隔操作で扱うことが特別に許されている部屋あった。

その部屋で毎週週4から週6くらい、朝10時前から夕方〜夜23時まで2年半に渡って勤務し続けたら、気管支喘息とハウスダストアレルギーを2点セットで発症した。

発症後に分かったことだが、その部屋は会社側がビルの清掃業者に入室を許可しておらず、入室に必要な電子カードも渡していなかった。そのため、その部屋は5年に渡って、殆ど掃除がされたことがなかった(!)。 確かに、その部屋はぱっと見てすぐに分かるほど埃の量が桁違いで、部屋全体が倉庫か紙屑入れのようだった(笑)

「埃の多い部屋だな」
「この部屋に入ると、よく咳込むな」

と思ってはいたが、勤務先はワークライフバランスを無視した業務量でも有名な企業だったので、私も殺人的業務量のとばっちりを受け、平日には通院はおろか、美容院で髪を切る時間(約1時間)すら取れない有様だった(これでも女なのだが…)。

黒いパソコンのキーボードに、埃が隙間なくびっしりと積もっている写真。キーボードは日本語表示で、EscキーやTabキーが写っている。背景は灰色の金属製の台。

↑ 数年間まともに掃除されていない部屋に置かれていたキーボード。とにかく埃が凄い

定期清掃を導入しようと、ルンバ購入の稟議を勤務先にかけあったり、面談の折に上司に相談したりはしていたが、いかんせん割ける時間が少なく、会社も金を生まないことには積極的に動いてくれない。
私の担当していた業務はその部屋でしかできなかったため、埃に耐えながら、業務を続けざるを得なかった。

ちなみに、最終的に発症したハウスダストアレルギー&気管支喘息は、マスクをしてもスーパーや衣料品店に入れないレベルのものだった。入店すると10分以内に息切れが起き、呼吸が苦しくなり、心拍数が毎分90回を振り切って喘息発作が生じる。

現在、絶賛労災手続中である…。

職場全体が埃だらけ

白い窓枠に灰色の埃がびっしりと積もっている写真。窓枠の下に、灰色の電源タップがあり、電源タップにも埃が積もっている。

↑ 室内のガラス窓付近

部屋単位の汚さランキングは「5年間掃除されていなかった部屋」がトップだが、5年間掃除されていなかった部屋が目立たない程度には、他の部屋も十分汚かった(笑)
企業別で見ても、残念ながら、今まで勤務させて頂いた会社の中でこの企業が最も汚く、汚さレベルもダントツだった。

今思い返すと、コピー機も自販機も電子レンジも冷蔵庫も傘立ても、とにかく会社内にあるありとあらゆる物に、埃が積もっていた。
「うっすら積もる」という生やさしいレベルではなく、歩きながら3〜5m離れた場所から視界に入った時に、「埃が積もっているのがはっきりと分かる」ようなレベル。

気管支喘息を発症した会社で、当時置かれていた傘立てを撮影した写真。黒い傘2~3本の柄に埃で積もり、柄が灰色になってしまっている。

↑ 勤務先に置かれていた傘立て

事業所全体の清掃はビルメンテナンス会社に外注していたが、依頼内容が掃除機かけとゴミ捨てだけで拭き掃除を依頼しておらず、時間を割いて拭き掃除をしないといけないという風潮も社内にないため、机や棚や傘立てなど床より上にある備品には、埃や髪の毛や紙ゴミが静かに降り積もっていた。

ちなみに当時は、机を軽く水拭きすると1時間もしないうちに、またうっすらと埃が積もった(!) 勤務先はおしゃれなビルの高層階で
、窓は全てはめ殺しで室内は埃だらけなので、空気中に漂う埃が多すぎたようだ。

従業員は、10cm先に埃がどっさり積もった台に珈琲入りのマイコップを置いたり、蓋を開けた衝撃で埃が舞い散りそうな電子レンジで、持参したお弁当をチンしたりしていた…

気管支喘息を発症した会社で、当時置かれていた執務机を撮影した写真。薄い灰色の机の上に、はっきり見えるくらい埃が積もっており、髪の毛が2本落ちている。水色と青色の2種類のLANケーブルのコードが、机の上に這っている。

↑ 勤務先の執務デスクの上。大体どの机もこんな感じ。

従業員は埃だらけでも平気

あまりに埃が多いと、働く人も感覚が麻痺してくるのか、目の前の机や椅子やパソコンに慢性的に埃がびっしり積もっていても、気にも止めずに仕事を続ける方が大多数。 掃除をしようという考えが、まず頭に浮かんでいなかった。
それよりも仕事で目に見える成果を出し、人事考課で社内評価を上げて、出世したがっている人の方が多かった。従業員の約9割を男性が占める職場だったからだろうか。

机だけでも定期的に水拭きして貰おうと、勤務先の本社の部署に掛け合ったことがあるが、

「東京本社で先行して行ったことがあり、猛反発を受けた」
「拭き掃除をして欲しいというニーズが、地方事業所にあるとは考えにくい」

という理由で却下され、驚いた。

今までお世話になった他の勤め先は、定期清掃の方が毎朝軽く水拭きして下さったり、デスクの島ごとにウェットティッシュの筒↓が置かれていて各自拭くことになっている職場ばかりだったので、「清潔や社内衛生に、ここまで無頓着な会社があるのか…」と呆れた。

後日デスクの島ごとにウェットティッシュを置くよう要望してみたが、

「東京本社ではそうしたことを行っておらず、地方事業所だけ行うと本社も行わなければならないので、許可できない」

という理解不能な理由で、またしても却下された。
役員や顧客が頻繁に出入りする本社こそ、こまめに掃除した方がいいと思う…

私物を好きなだけ持ち込んで構わない職場で、おもちゃのフィギュアや日本酒や山積みのレトルトカレーが、人様のデスクに置かれているのを見かけたことがあるので、机を触られる=自分の部屋を荒らされる、という気分になるのかもしれない。

ビル空調設備が壊れている、強制的に停止させられる

こちらも喘息発症後に判明したことだが、ビル空調の約半数が、壊れたり風量を変えられていたりして、本来の性能を発揮できない状態のまま放置されていた。

事業所の入ったビルの空調設備は、定期的に点検することが法律により定められているので、ここまでくると立派な法律違反である。

だが、空調設備が壊れていても、異音でもしない限り、従業員は気が付かない。私の場合も、喘息発症後9ヶ月が経った頃に、社内調査を経てようやく判明した。定期点検が必要という事実も、法律に明るい方や長年人事総務に携わった方でなければご存知ないだろう。そのため、盲点にはなりやすい。

相対湿度が40%未満で、毎年冬に風邪・インフルエンザが蔓延する

職場内の相対湿度は、季節を問わず40%から70%の間であるよう、建築物衛生法で定められている。しかし私が喘息とハウスダストアレルギーを発症した職場は、秋・冬・春にかけての相対湿度が、法の定める基準値40%を下回っていた。

相対湿度が40%を下回ると、喉等の上気道の粘膜が乾燥し、抵抗力が下がる。埃の多い職場なので、粘膜は埃等の異物でも傷つけられ、更に抵抗力が下がる。逆にインフルエンザウィルスの生存率は、相対湿度40%未満の方が高くなる。

結果として職場環境は、ウイルスなどが体内に侵入しやすく、発症もしやすい環境になっていた。

そのためか、私の勤務先は、以前勤めていた職場と比べて、冬に風邪やインフルエンザでダウンされる方の数が非常に多かった。
20代~30代前半の男性が職場の約9割を占めており、スポーツ好きな人も多かったので、病弱な人が多いわけではない。にも関わらず、毎年冬にはチーム内・部署内で次から次へと風邪・インフルエンザの罹患者が出て、どのチームも急に人が欠け、仕事に支障が出ていた。

新卒入社でその勤務先で働いている方は特に疑問に思わなかったようだが、以前製薬会社で勤務した経験がある人間から見ると、少々異様と思える状況だった。

また、風邪・インフルエンザは、気管支喘息の悪化要因の1つである。私自身も発症前の冬に2度も風邪を引いたので、発症していた喘息はより悪くなったのだろうと思う。

花粉症・アレルギー性鼻炎・目のかゆみに苦しむ方が多い

職場に5年10年と勤めている従業員に、花粉症・アレルギー性鼻炎・アレルギーによる目のかゆみを訴えている方の数が、不思議なほど多かった。

喘息治療を続けていると、どうしても世間話で体調の話が出る。その際、「私もハウスダストアレルギーです」「私は鼻炎があります」等々、会う人会う人アレルギーや花粉症の症状があることを口にされる。

調べてみると、埃の成分にはハウスダスト・ダニ・花粉等が含まれているので、埃が多い=花粉も多い ということになる。勿論ハウスダストやダニも多いので、花粉症の方、アレルギー性鼻炎の方に出くわしやすいことにも、合点がいった。

なお、私の他にも、喘息の方、喘息一歩手前の症状が出られた方も各1名おられたことを付け加えておく。

気管支喘息とハウスダストアレルギーの発症に至るまでの時間

約2.5年

勤務した期間は3年1ヶ月だが、最初の半年間は見習いということもあり、仕事の負荷が軽く、残業時間も短く、埃部屋で働く時間もそこまで長くなかったので、実質2年半と考えていいと思う。

発症者の病歴や体質

入院歴・手術歴なし。会社員なので、年1回の健康診断受診を義務付けられていたが、痩せすぎ以外では引っかかったことはなかった。(痩せすぎでBMIだけ毎年引っかかっている)

病気は、年に1回風邪を引く程度。2ヶ月に1度くらい偏頭痛、半年に1度くらい生理痛で2〜3時間ほど動けなくなることがある。花粉症はなし。子供の頃、アトピーの症状は数年出ていたが、小児喘息を患ったことはなかった。

発症前は気づいていなかったが、発症後に血液検査を受けると、2回ともハウスダストアレルギーとダニアレルギーが陽性だった。但し、陽性と言っても7段階中の2のレベル(RAST値が2)でしかなく、発症確率は約13%。

終わりに ~好きなことができなくなる~

喘息は一度発症してしまうと、現代の医学では治す方法が確立されていない。ハウスダストアレルギーも同様に、確実に治す方法が見つかっていないので、毎日毎日抗アレルギー薬と分厚いマスクで症状を抑えるしかない。

それでもスーパー・コンビニ・衣料品店・書店・図書館に入れないなど、日常生活はかなり制限を受け、不自由な暮らしを強いられた。
 → 筆者が入れない店・場所についてはこちらへ

好きなところに自由に行けないと、苦しく、ストレスも溜まる。ストレスが溜まっても、下手なところに出向くと逆に発作が起きるので、自宅等の限られた場所で発散させるしかなく、そんな状態が何ヶ月も続くとさすがに気が滅入ってくる。

仕事でも活動が制限され、私のようにエンジニアから事務仕事へ異動させられたり、転職を余儀なくされたり、やりがいのある仕事ができなくなったり、年収が大幅に下がったりする。

ハウスダストアレルギーも気管支喘息も、発症する前に環境を正してしまう方が圧倒的に楽であることは、疑いようがない。
掃除が面倒で、掃除することに意義を見いだせなくなったら、こうした事例を思い起こして頂ければと思う。