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「そらいろのたね」(なかがわりえこ 著) あらすじと読書感想文

「ぐりとぐら」の作者のお2人が作られた絵本です。

「そらいろのたね」のあらすじ

※ストーリーのさわりの部分のみを記載

ゆうじ君の宝物は、模型の飛行機でした。ゆうじ君がたんぽぽの咲いている野原でその飛行機を飛ばしていると、きつねがやってきて、飛行機を頂戴とねだりました。

ゆうじ君が、これは僕の宝物だからあげない、と断るときつねは、それじゃあ僕の宝物の交換して、と言い、ポッケからそらいろのたねを取り出したので、ゆうじ君は飛行機と種を交換しました。

ゆうじ君はそらいろのたねを庭の花壇に蒔き、じょうろでお水をあげました。すると翌日、そらいろのたねを蒔いたところから、小さな小さな空色の家が生えてきました。家には小さなドアと窓と煙突がついています。ゆうじ君は喜んで、せっせとお水をやりました。

そらいろのいえは少しずつ大きくなり、ある日ひよこが、ゆうじ君の育てたそらいろの小さなおうちを見つけ、「ぼくのうちだ」と思い、住み始めました。そらいろのいえがもう少し大きくなると、今度は猫が見つけ、「わたしのうちだわ」と思い、ひよこと一緒に仲良く住み始めました…。

「そらいろのたね」の説明

「ぐりとぐら」シリーズを作られた、なかがわりえこさん&おおむらゆりこさんのコンビで作成された絵本です。文章はなかがわりえこさんが、イラストはおおむらゆりこさんが担当されており、お2人は実の姉妹(!)です。絵本「そらいろのたね」には、ほんの少しだけ、ぐりとぐらも登場します。

福音館書店出版。1979年5月に改定版第1刷、2008年7月に改定版第94刷。
定価800円(税別)。

読み聞かせは4歳から、お子さんがご自分で読まれるなら小学校初級~ が推奨。

「そらいろのたね」の読書感想文

※ストーリーのネタばれを含みます。問題ない方のみ続きをお読み下さい。

楽しくおいしく可愛らしい「ぐりとぐら」シリーズとは少し毛色が違い、可愛らしい中に教訓めいたものが仄かに香る絵本でした。



芽(?)を出したばかりのそらいろのいえは、大変小さく可愛らしかったです。子どもが踏んづけたら壊れそうなくらいの小ささで、ひよこさんが1匹だけ入ることができます(笑) でも四角い窓と円い窓がついていて、窓は大きく広々としていて、何だか居心地の良さそうな雰囲気を醸し出していました。
おうちのサイズ感といい雰囲気といい、見事に私のストライクゾーンで、ひよこさんごと我が家に持ち帰りたくなるようなおうちでした(笑)



そんなそらいろのおうちが大きくなり、1匹の強欲なきつねさんに支配されてしまった時、私は学生時代に学んだパレスチナとイスラエルを思い出しました。

パレスチナは、地中海の東側にある面している土地で、キリスト教とイスラム教とユダヤ教という三大宗教の聖地が、僅か1平方キロメートルに納まってしまっているという、世界的にも稀有な街エルサレムを有しています。

昔はどの宗教の方もパレスチナの地で平和に共存していたそうなのですが、20世紀に入ったあたりからユダヤの方が移住し始め、20世紀半ばにユダヤの方がパレスチナの地にイスラエルという国を作ってしまってからは、その地に住めなくなったイスラム教徒との、争いが絶えない土地になってしまいました…。



何かを求めて行動した結果、他の方と平和に共存出来なくなってしまったのはユダヤの民だけではありませんが、欲に駆られて何かを求めた時は、そらいろのいえが太陽に向かって膨らみ始める時なのかもしれません。

そらいろのいえは植物のような存在で、窓を閉め切ってしまうと息(光合成?)ができなくなってしまうのか、強欲な動物には支配できないからなのか、いえが壊れてしまった理由は、本書では明かされていません。でも、そらいろのいえが膨らみ始めた時、ドアや窓を開けてもう一度みんなを招き入れていれば、そらいろのおうちは壊れなかったんじゃないかな、と感じます。

そらいろのいえは、色といい、住んでいる人や動物の数と種類の多さといい、地球によく似ています。綺麗で住み心地のいいおうちが壊れてなくなってしまわないよう、注意しようね、という願いが込められた絵本なのかなあ、と思いました。

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「魔性の子」(小野不由美 著) あらすじと読書感想文

十二国記シリーズの一作なのに、電灯を消すのが怖くなるほど、ホラー要素の強い小説。だが、エスカレートする怪事件と、次第に逃げ場を無くしていく高里と広瀬が気になって、先を読まずにはおられないかった。

「魔性の子」のあらすじ

※初版本(平成3年発行)のストーリーを、ストーリーのさわりの部分のみ記載

主人公広瀬は、教育実習生として3年弱ぶりに母校の高校へと戻ってきた。3年弱の間に制服は変わり、校舎は街外れへと移転して真新しくなり、校内の地図を見ながらでないとかつて入り浸っていた化学準備室の場所も分からず、広瀬は部外者の様な何のよすがもないところへ来ているような、寄る辺のなさを感じる。それは広瀬が、気が滅入った時に必ず感じる、「帰る場所のない気分」によく似ていた。

特別教室棟の一角に何とか化学準備室を見つけ、実験用具やメモや油絵具が雑然と置かれた場所で教育実習の担当教官であり恩師でもある化学教師の後藤に再会すると、ようやく広瀬の疎外感は薄らいでいった。

後藤に連れられ、担当する2年6組の教壇で出席を取った際、広瀬はクラスに不思議な生徒がいるのを目にする。高里という名のその生徒は、外見は闊達とした成長期の若者のそのものだが、立ち居振る舞いが外見と不釣り合いなほど静かで、不思議と目を引いた。
広瀬自身、高校時代は遅刻欠席の多いはみ出し者の問題児だったが、「広瀬ははみ出したくてはみ出していたが、高里は群れに入りたいのに入れなくてはみ出しているところが違う」と後藤は言う。

教育実習3日目に、高里が1人教室で居残っているのを見かけ、広瀬は高里に話しかけた。その直後、高里の足元を何か獣のようなものが走り抜けていったように広瀬には思えたが、それが何なのかは判然としなかった。翌日の昼休み、かつての広瀬と同様化学準備室にたむろしている学生達に高里の話を向けると、高里と同じクラスの生徒築城から「高里は小学生の頃神隠しに遭っている」「高里には関わらない方がいいんだ」と聞かされる。

実習5日目のホームルームの時間に、2年6組が体育祭の準備をしていると、2年のクラスにやってきた3年の橋上が、神隠しのことで高里をからかう。と、広瀬には、クラスの全員に強い緊張が走ったように思えた。高里の目の前で神隠し情報のリーク元扱いされた築城はやっきになってその事実を否定し、からかい続ける橋上に高里は僅かだが眉をひそめた。

その日の放課後、化学準備室に学級委員が飛び込んで来、体育祭の準備をしていた築城が同級生の扱っていた鋸で脛を切られたと聞かされる。広瀬が保健室に急ぐと築城は既に帰宅した後だったが、養護教諭の十時先生から、同じ日に釘で手を打ちつけた男子生徒がおり、その名前は3年の橋上だと聞かされる…

「魔性の子」の説明

小野不由美さんの代表作、十二国記シリーズの一作。十二国記シリーズは主に異世界を舞台とするファンタジー小説でホラー要素はないが、本書はシリーズの一作ながら、ファンタジー要素よりホラー要素が強い
高里が登場する「風の海 迷宮の岸」(上下巻)と「黄昏の岸 暁の天」(上下巻)とあわせて読むと、本書では多く語られていない高里と十二国の関係をより深く理解できる。

現在発売されている十二国記シリーズの書籍は、下記の通り。(下にいくほど新しい)

「月の影 影の海」(上巻・下巻)
「風の海 迷宮の岸」(上巻・下巻)
「東の海神 西の滄海」
「風の万里 黎明の空」(上巻・下巻)
「図南の翼」
「黄昏の岸 暁の天」(上巻・下巻)
「華胥の幽夢」(短編集)
「丕緒の鳥」(短編集)

新潮社の十二国記公式サイトへは、下記のリンクよりどうぞ。
 http://www.shinchosha.co.jp/12kokuki/

「魔性の子」の読書感想文

本書は、ホラー小説である。ファンタジー小説の要素も含んではいるが、読み進むにつれ、背後を振り返って誰もいないことを確かめないと理由もなく怖いという症状が2~3日続くので、ホラー小説だと思う(笑)

怖いものがあまり得意でない私は普段ホラー小説を読まないが、この一作は高校時代に出会ってから社会人になった現在に至るまで、手元に置き続けている。先日数年ぶりに読み返したが、ストーリーの細部の記憶をなくしていたこともあり、時間を忘れて貪り読んだ。加齢で集中力が途切れがちな昨今、ふと時計を見たら2時間半過ぎていたというのは、貴重な経験である。

小野不由美さんは「東亰異聞」や悪霊シリーズから現在に至るまでホラー小説を書き続けている方だと存じてはいるものの、文から行間から漂ってくる怖さが尋常ではない。0時半までに眠らないと明日の仕事に差し障ると分かってはいるのに、読後布団に入ると電灯を消しづらく、心を決めて電灯を消した後も、闇の中から暗い影が立ち上ってきそうな気がして眠りづらい(笑)

なら平日の夜に読まなければいいじゃないかとお叱りを受けそうだが、会社員は夜しか自由な時間が取れないし、小野不由美さんの作品はどれもすこぶる長いのに読み始めると止まらないので、遅読な人間はいつ読み始めても夜の時間を過ごさざるを得ない(笑) そんなこんなでちょっと困った小説なのだが、忘れた頃にまた読み始めてしまうあたり、自分は好事家を通り越して阿呆じゃないかとさえ思えてくる。それでも、ホラーでもファンタジーでも、小野不由美さんの小説を読めれば幸せなので、もう阿呆でも何でも本望である。

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「11ぴきのねこ」(馬場のぼる 著) あらすじと読書感想文

「11ぴきのねこ」は、お子様に必ず一度は通っておいてほしい道です(笑)

「11ぴきのねこ」のあらすじ

※前半部分のあらすじのみを記載

あるところに、11匹ののらねこがいました。ねこ達はいつもおなかをすかせていました。

ある日11匹のねこは、小さな魚を1匹捕まえました。小さな魚に我先に飛びつこうとする猫たちでしたが、とらねこ大将は「我々11匹は仲間なんだ」とたしなめます。とらねこ大将は、小さな魚を11つにきちんと切り分けました。小さな魚は、しっぽだけ、ひれだけ、めだまだけと更に小さくなってしまいましたが、11匹の猫はみんなで輪になって、どれを食べようかと神妙に吟味しました。

そこに年老いた髭の長い猫がやってきて、「大きな魚が食べたいか」と11匹の猫たちに尋ねます。じいさん猫は「山を越えたずっと向こうに大きな湖がある。その湖には、怪物のように大きな魚が棲んでいる」と、身振り手振りを交えて教えてくれました。みんなで力を合わせれば、どんな魚もきっと捕まえられる。そう信じて、11匹の猫は湖へ向かいました。

野山を越えてやっと辿り着いた湖で、11ぴきの猫は筏を作って3日間探しましたが、大きな魚は見つかりません。湖にある島に上陸して更に待っていると、ある日突然、大きな魚が水面から飛び出しました。ねこたちが一口で呑まれてしまいそうなくらい、口も体も大きな魚です。

11匹の猫は「ニャゴー ニャゴ ニャゴ」と飛びかかり捕まえようとしますが、大きな魚にあっさり蹴散らされてしまいます。
今のままではとても歯が立たないことに気付いた11匹の猫たちは、大きな魚を見張りながら、身体を鍛え、作戦を練り始めます…。

「11ぴきのねこ」シリーズについて

とらねこ大将率いる11匹の猫たちが、さまざまな冒険やチャレンジをするお話。11匹の猫たちは勇敢でわんぱくだが、失敗も多く、総じて可愛らしいストーリーが多い。
現時点で7冊出版されている。発行された本は、下記の通り。(下にいくほど新しい本)

「11ぴきのねこ」
「11ぴきのねことあほうどり」
「11ぴきのねことぶた」
「11ぴきのねこ ふくろのなか」
「11ぴきのねことへんなねこ」
「11ぴきのねこ マラソン大会」
「11ぴきのねこ どろんこ」

「11ぴきのねこ」は、1967年4月第1刷、2014年3月第173刷(!)。
縦26.5c×横19cmのハードカバー絵本。
定価1200円(税抜)。こぐま社出版。

「11ぴきのねこ」の読書感想文

※ストーリーのネタばれを含みます。問題ない方のみ続きをお読みください。

「11ぴきのねこ」はストーリーのオチが秀逸すぎます。幼い頃読んだ時は、オチのインパクトが強すぎて、前半・中盤の良さに目が行きませんでした(笑)

でも、この絵本の良さは、オチではなくストーリー全体だったんだ、と大人になって読み返した時に気付きました。リーダーとらねこ大将を中心に、ねこたち11匹はよくまとまり、遠く離れた湖まで冒険して、みんなが束になっても叶わなかった「おおきなさかな」を最後には作戦勝ちで捕えてしまいます。標的にされてしまった「おおきなさかな」には気の毒ですが、力では勝てない獲物を団結力と知恵でカバーして勝ってしまったところは、やっぱりちょっとカッコ良かったです。

また、おじいさん猫の助言に11匹全員が素直に従うところといい、「おおきなさかな」をじっくり観察して作戦を練るところといい、一度失敗しても再チャレンジして成功するところといい、生きていく上で必要となる教訓のようなものが、短いストーリーの中に含まれています。
学校教育において「生きる力」の必要性が叫ばれて久しいですが、「生きる力」を「今自分が置かれている境遇に負けず、自分の未来を自分たちの力で切り開いていく力」と仮定するならば、この「11ぴきのねこ」の絵本には「生きる力」のかけらが含まれているのではないか、と読んでいて感じました。

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「ぐりとぐらのえんそく」(なかがわりえこ 著) あらすじと読書感想文

「ぐりとぐらのえんそく」のあらすじ

※前半部分のあらすじのみを記載

リュックサックと水筒をもって、野ねずみのぐりとぐらは野原にやってきました。リュックの中には、勿論お弁当が入っています。
野原で荷物を下ろし、伸びをして、いそいそと赤い目覚まし時計を取り出して見てみましたが、まだやっと10時になったばかり。2匹で体操をしてみても、やっぱりお昼にはなりません。

「今度はマラソン」と走り始めたぐりとぐらは、切り株やいばらをものともせず、ぐんぐん進みます。と、突然、ぐりが転び、続けてぐらも転んでしまいました。二匹の足には、細く、とてもとても長い何かが巻きついています。くもの巣にも見え、草にも見えましたが、それは緑色をした長い毛糸でした。

ぐりが毛糸を巻き取ると、毛糸はえんどう豆くらいの大きさになりました。「この毛糸はどこまで繋がっているんだろう?」 ぐりとぐらは代わる代わる毛糸を巻き取りながら、野原を横切り、丘を登って下ると、緑の毛糸玉は両手で抱えきれないくらい大きくなりました。二匹は大きな毛糸の一巻きを地面に転がしながら、更にもう1つ丘を登り、森に入ると、森の向こうに茶色い家が見えます。毛糸の先は、家の中に続いており、ぐりとぐらは緑の毛糸の先を追って、家の中に入ります…。

「ぐりとぐら」シリーズについて

野ねずみのぐりとぐらが主人公の絵本シリーズ。
ぐりとぐらはお料理することと食べることが大好きで、おいしそうなごはんや森の動物たちが絵本に登場することも多い。
おはなしを中川李枝子さんが、イラストを山脇百合子さんが担当されており、お二人は実の姉妹(!)だそう。

現在出版されている「ぐりとぐら」シリーズの絵本は、下記の通り。(上にいくほど古い)

「ぐりとぐら」
「ぐりとぐらのおきゃくさま」
「ぐりとぐらのかいすいよく」
「ぐりとぐらのえんそく」
「ぐりとぐらのくるりくら」
「ぐりとぐらのおおそうじ」
「ぐりとぐらとすみれちゃん」
「ぐりとぐらの1ねんかん」

「ぐりとぐらのえんそく」は、1983年第一刷で、1999年8月時点で第64冊(!)。
定価900円(税別)。福音館出版。
大きさは縦20cm×横27cmで、ハードカバー絵本。
大人が読んであげるなら4才から、お子さんがご自身で読まれるなら小学校低学年から、が推奨。

「ぐりとぐらのえんそく」の読書感想文

※ストーリーのネタばれを含みます。問題ない方のみ続きをお読みください。

「ぐりとぐら」シリーズの本を読むと、かわいらしくて骨抜きになります(笑)
毛糸玉に負けそうなほど小さいぐりとぐらのサイズ感も良いのですが、お昼ごはんを心待ちにしたり、毛糸の先を二匹でどこまでも追いかけたり、見知らぬおうちに勝手に入っていってしまったりと、やることなすこととにかく愛らしくて。

本書では、毛糸の先をどこまでも辿る、というわくわく感が特に良かったです。しかも、毛糸がとても長くて、毛糸の先に辿り着くまでがてもとても遠い(笑) 丘を越えたり森を抜けたり「一体どこまで行くんだろう」と思いながらも、素朴なイラストで描かれた緑の毛糸玉と自然の風景とぐりぐらを追いかけて、楽しく読み進めることができました。

この絵本では大きなクマも登場するのですが、最初クマが登場した時、あまりの大きさの違いに「ぐりとぐらが食べられちゃうんじゃないか…」と心配したのですが、そんな気配は毛の先ほどもなく、クマさんとぐりぐらはあっという間に仲良くなったので、安心しました(笑)
クマさんは姿かたちは大きいのに、チョッキが崩れていても、ぐりとぐらが勝手に家に上がり込んでいても、全く気にしないほどのんびりした気性で、「『ぐりとぐら』らしいなあ」と感じ、こちらも微笑ましかったです。

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「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」(アガサ・クリスティー 著) あらすじと読書感想文

小説全体から溢れる、溌剌とした雰囲気がお気に入り。名探偵ポアロ氏が登場しない作品だが、アガサクリスティ女史の作品はハズレがない。

「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」のあらすじ

※全35章中第1章のあらすじのみを記載

ウェールズの海辺の町に住むボビイ・ジョーンズは、トーマス医師とゴルフの16番ホールを回っていた。
ボビイの打ったゴルフボールは、右方向へすっ飛び、視界から見えなくなってしまう。残念ながら逆光であたりは思うように見えず、しかも太陽は沈みかけており、海辺からは薄もやまで立ちこめてきていた。ボビイには叫び声のようなものが聞こえた気がしたが、トーマス医師には何も聞こえなかった。ボールは何とか見つかったが、ボビイはボールをコースに戻すことが出来ず、16番ホールをギブアップする。

17番ホールはボビイの苦手なコースで、コースの途中に深い割れ目がある
割れ目を飛び越すようにしてボールを打たねばならないが、ボビイの打ったボールはこれまた見事に、割れ目の深淵へと落ちて行った。またしてもボールを探す羽目になったボビイが、崖を歩いて下っていくと、割れ目の下の方に何か黒っぽいものがあることに気付いた。

トーマス医師とともに割れ目を下へ下ってみると、黒っぽく見えたものは、背骨を折り、意識を失った姿の40歳くらい男だった。

トーマス医師は既に手遅れだと診断し、人を呼ぶために男とボビイを残してその場を立ち去る。
ボビイが男のそばに腰を下ろし、煙草を吸いながら、男の陽に焼けた肌と機知と魅力に富んだ顔立ちを眺めていると、男はパッチリと目を開けて、真っ直ぐにボビイを見、はっきりとこう言い残して息絶えた。

「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」

「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」について

原題は”Why Didn’t They Ask Evans?”。
著者はAgathe Christie、訳者は田村隆一。
ハヤカワ文庫、定価860円(税抜)。

「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」の読書感想文

※本書のネタばれを含みます。問題ない方のみ続きをお読みください。

アガサ・クリスティーの作品は、何といっても名探偵エルキュール・ポアロシリーズが好きだが、本作品に名探偵は出てこない。
代わりに、素人迷探偵が男女2人も登場する。

迷探偵はゴルフが下手で牧師の息子であるボビイと、お転婆の貴族令嬢フランキー(フランシス)の2人だが、2人は幼馴染みだけあって、会話のテンポが小気味良い。
慎重派のポアロ氏とは似ても似つかないほど、ボビイとフランキーは捜査の早い段階からあれこれ推理し合い、高級車ベントレーを飛ばして動き回っては、潜入捜査も辞さず大胆に調査を進めていく。

ポアロ氏を頭脳派とすると、ボビイとフランキーのコンビはアクション派だ

ぽんぽん飛び交う会話や、若い2人の行動に合わせて次々と舞台が移り変わっていくのが、ポアロシリーズにはない魅力だった。推理の方は素人探偵らしく、右に寄ったり左に折れたり大きな落とし穴に嵌ったりするが、それもまたボビイやフランキーの若々しさを感じられて、気持ちが良かった。

そして、肝心の「エヴァンズ」は、本書の最後の最後までどこの誰だかさえ判然としない。ようやく誰か分かったと思ったら、居場所がまたとんでもない(笑)
こんな読者がみなずっこけるようなオチを、よくも思いついたものだ。

アガサ・クリスティーの小説は、有名無名問わずハズレがなさすぎる。何を買ってもお金を損した気分にならないのは、読者としては有難い限りである(笑)

「マダム・ジゼル殺人事件」(アガサ・クリスティ 著) あらすじと読書感想文

「マダム・ジゼル殺人事件」のあらすじ

※全26章中第1章・2章のみを記載

イギリスのクロイドン空港へと出発する定期旅客便プロミシューズ号の16番席に収まったジェイン・グレイは、向かいの12番席を見ることを頑なに拒んでいた。高級美容院で働くジェインは、富くじ馬券で当たった100ポンドを使い、北部フランスの保養地ル・ピネを訪れた帰りだった。

機内では、生粋の貴族ヴィニーシア・カーと、コカイン漬けの伯爵夫人シシリー・ホーべリが甲高い声で喋り、音楽を愛するブライアン博士はフルート片手に思案に耽り、アルマン・デュポンとジャン・デュポンの親子が考古学上の議論を熱くかわし、クランシー氏が推理小説の構想を練り、ライダー氏が会社の資金繰りを思案し、探偵エルキュール・ポアロ氏が乗り物酔いを紛らわすため眠りに就いていた。12番席の歯科医の青年ノーマン・ゲイルとジェインは、向かい合わせの席で、お互いが初めて出会ったル・ピネでのルーレットのことを思い出していた。

スチュワードやメイドが行き来する中、何故か蜂が飛び回り、乗客の手によって殺される。そして最後部の2番席いたマダム・ジセルが亡くなっているのが見つかった。

マダム・ジゼルの容態を確かめるため機内で医師を呼びかけ、ノーマン・ゲイルとブライアン博士が確認したところ、マダム・ジセルの首元に何かに刺されたような痕が見つかる。発作か蜂によるショック症状ではないかと疑われ始めた頃、エルキュール・ポアロはマダム・ジセルの黒服の裾に、蜂に似た模様の何かが落ちていることに気付く。拾い上げてみると、何と吹き矢の矢針だった…。

「マダム・ジゼル殺人事件」について

原題は”Death in the clouds”。(意味:雲の中の死) 「雲をつかむ死」と訳されていることもある。
名探偵ポアロシリーズの長編小説。
著者はAgathe Christie、訳者は中村妙子。
新潮文庫、定価514円(税抜)。

「マダム・ジゼル殺人事件」の読書感想文

※犯人のネタばれを含みます。問題ない方のみ続きをお読みください。

アガサ・クリスティのこの作品は、素直に犯人に驚いた。犯人の立ち位置が良く心理描写もそれなりに多かったので、まさかこの人だとは思わなかった、というのが正直な感想。同じくアガサクリスティを読み耽っている親族に聞いても、この作品は面白かったと意見が一致した。

まとまったお金が入りお洒落をした若い女性が、腕の良い歯科医で立ち居振る舞いもいい若い男性と出会い、恋に落ちる。どちらも魅力的な容姿と人柄を持ち、2人ともが同じ避暑地で過ごし、同じ飛行機に乗り合わせて、殺人事件の現場にも居合わせたという縁も相まって、仲が深まり自然な成り行きで結婚を望む。そんな幸せそうな2人のどちらかが、既婚者でしかも殺人犯とは…。

アガサ・クリスティも、少々気の毒な設定を組んだものだと思う。残された1人には、アガサ・クリスティ&ポアロ氏により新天地と未来のパートナー(?)が用意されているので、後味の悪さがないのが有難い。未来のパートナーとして考古学に縁の深い人物が選ばれているので、アガサ・クリスティ女史自身が不幸な結婚の後考古学者と再婚を果たしたことを思い起こさせ、ある種最上の未来を用意してあげたんだなあ、と感じさせた。

「青列車の秘密」(アガサ・クリスティ 著) あらすじと読書感想文

「青列車の秘密」のあらすじ

第1章のあらすじ

パリのいかがわしい一画にあるアパートの5階。そこで、鼠のような顔を持つ小男と、どぎつい化粧をした女が富豪の到着を待っていた。
男の名はボリス・イヴァノヴィッチ、女の名はオルガ・デミロフ。男は、スパイの王とも言える男だった。建物の向かいでは、歩道の上で2人の男が同じく富豪の到着を待っている。歩道には2度2人の男の白髪の男が行き来し、その白髪の男こそが歩道の男どもの黒幕ではないかと推察された。

約束の時間になり、肩幅の広いアメリカ人の大富豪が、男女の待つ部屋を訪れた。取引の詳細を公にしない、という条件に同意した富豪は、小男の差し出した包紙の中身を丹念に調べ、札束と交換で包紙を受け取り、部屋を後にする。歩道の男2人が、音もなく富豪の後に続き、夜の闇に消えた。

「ホテルまで辿りつけると思うか」そう問うたボリスに、「辿りつけるでしょう」とオルガ。「ただ…」とオルガは言い淀み、富豪が持つ包紙の中身をプレゼントされるであろう女性については、言及を避けた。シルクハットをかぶり、マントをまとった上品な男が、通りをゆっくりと歩いていく。男が街灯のそばを通る時、豊かな白髪が照らし出された。

「青列車の秘密」のあらすじ

火の心臓と呼ばれる、きずのない大粒のルビー。名高い宝石の例に漏れず、美しさの裏に血塗られた歴史を持つこのルビーを贈られた女性が、超高級寝台列車ブルートレインの中で非業の死を遂げる。探偵として名声を博していたエルキュール・ポアロが偶然同じブルートレインに乗り合わせ、事件の調査を依頼された。

身寄りのない老夫人の遺産を引き継いだキャサリン・グレー、旧家に生まれながらも放蕩ほうとうな生活が祟り経済的に行き詰まっているデリク・ケタリング、デリクの愛人で派手な生活を好むダンサーのミレーユ、アメリカで指折りの大富豪ヴァン・オールデン、富豪の若く有能な秘書ナイトン、伯爵を名乗りつつも貴婦人を食い物にするド・ラ・ローシュ伯爵……。

さまざまな登場人物とその恋を織り交ぜながら、ストーリーは予想外の結末へと進んでいく。

「青列車の秘密」について

原題は”The Mistery of the Blue Train”。名探偵ポアロシリーズの一作。
著者はAgathe Christie、訳者は青木久恵。
早川書房ハヤカワ文庫出版、定価820円(税抜)。

「青列車の秘密」の読書感想文

※ネタばれを含みます。問題無い方のみ続きをお読みください。

アガサクリスティのポアロシリーズは、TVドラマと原作とを両方味わう派だが、このブルートレインについては、原作の方がおすすめできる

主人公であるキャサリン・グレーの過去や立ち居振る舞いや考えが厚めに描かれているので、より感情移入でき、淑女を絵に描いたような穏やかで思慮深いキャサリン側に、読者はどうしても立ちたくなる(笑)
キャサリンの今後に含みを持たせる終わり方になっているので、デリク・ケタリングとのこれからが気になりつつ、彼女により良い未来が広がっているといいなと思った。キャサリンなら、レコンベリー城主夫人も務まるだろう。

ちなみに、邦題「青列車の『秘密』」というのは誤訳じゃないかとすら思うほど、青列車は超高級なだけで普通の列車だった(笑) 「秘密」の一言で「情事」を暗示しているのかもしれないが、仕掛けつき列車をイメージした阿呆な読者(=私)もいる…。「青列車の難事件」とでもする方が、本文の内容に沿う気がする。

TVドラマ版では、「火の心臓」と「ブルートレイン」を映像で見ることができる。深紅の色をした大粒のルビーが美女と事件を彩り、内装に贅を凝らした超高級列車が何度も映し出されるので、見ていて楽しかった。TVドラマ版のポアロシリーズは、どの作品をとっても映像美がある。ドラマ版のキャサリン・グレーは物凄く清らかで可愛らしい方が選ばれており、特に眼福だった(笑)

登場人物の役どころとストーリーが原作からは大きく変更されているので、原作とは違う作品と思った方が、ドラマ版を楽しめるかもしれない。

「11ぴきのねこ ふくろのなか」(馬場のぼる 著) あらすじと読書感想文

「11ぴきのねこ ふくろのなか」のあらすじ

※ストーリーの前半部分のみを記載

ある晴れた日、11ひきの猫たちはリュックを担いで遠足に出かけました

みんなで1列になって歩いて行くと、綺麗なお花畑のそばを通りかかりました。お花畑にはピンクや薄紫の花がたくさん咲き乱れており、とても綺麗でしたが、花畑の前にはたて札が立てられており、「はなを とるな」と書かれています
「いっぱい咲いてるから ひとつぐらいとってもいいさ」「ひとつだけ ひとつだけ」と、とらねこ大将を除く10匹はお花畑に入っていってしまいます。とらねこ大将も最初は「だめっ」と嗜めていましたが、結局みんな1本ずつ花を摘み、花を頭に挿してしまいました。

そうして歩くうちに、谷川にかかっている吊り橋に着きました。吊り橋の前にも看板が置かれており、「きけん! はしを わたるな」と書かれています。11匹の猫たちは、みんな吊り橋を渡ってしまいました。

広い丘の上に出ると、丘の上には大きな木が1本立っていました。木の前にも立て札があり、「木に のぼるな」と書かれています。11匹の猫たちは、またしても、みんな木に登ってお弁当を食べました。

11匹の猫たちがお弁当を食べ終わると、木の下には大きな白い袋が置かれていました。袋のそばの切り株には白い紙が1枚置かれており、「ふくろに はいるな」と書かれています。
11匹の猫たちが押し合いへし合いしながら袋に入ると、どこからか不思議な笑い声が聞こえ、袋の口がぎゅっと締められてしまいました(!) 。

11匹の猫は、緑色の身体をした化け物ウヒアハに生け捕りにされてしまったのです。ウヒアハは口を縛ったままの袋を担いで、どんどん山を登っていき…。

「11ぴきのねこ」シリーズについて

とらねこ大将率いる11匹の猫たちが、さまざまな冒険やチャレンジをするお話。11匹の猫たちは勇敢でわんぱくですが失敗も多く、総じて可愛らしいストーリーが多いです。
現時点で7冊出版されており、発行された本は下記の通り。(下にいくほど新しい本です)

「11ぴきのねこ」
「11ぴきのねことあほうどり」
「11ぴきのねことぶた」
「11ぴきのねこ ふくろのなか」
「11ぴきのねことへんなねこ」
「11ぴきのねこ マラソン大会」
「11ぴきのねこ どろんこ」

「11ぴきのねこ ふくろのなか」は、1982年12月初版、2011年11月第85刷。
定価1200円(税抜)。

「11ぴきのねこと ふくろのなか」の読書感想文

※ストーリーのネタばれを含みます。問題ない方のみ続きをお読みください。

「やってはいけない」と言われるとやりたくなるという天邪鬼あまのじゃくな気持ちはよく分かりますが、やりすぎると痛い目に遭ってしまう、という絵本です。

好奇心旺盛で天邪鬼あまのじゃく積載オーバーな(昔の私のような)子どもさんに読ませるには、いい薬になる絵本だと思いました(笑) 同様に、反抗期真っ盛りのお子さまにも適しているかもしれません。親の言うことをすんなり聞き入れない反抗期は、子どもの成育にとって非常に重要な過程の1つですが、大人の言うことを聞かなすぎるとと事故など取り返しのつかないことにもなりえます。
絵本を通じて、「本当にやってはいけないこともある」という事実を学ぶには、丁度いい教材になりそうだなあと感じました。

以下余談ですが、緑の化け物ウヒアハは、最後はどこに行ってしまうんでしょうね。バケモノとはいえ、11匹の猫も十分悪いことをしでかしたのですし、ウヒアハだけが樽に入れられて突き落とされたまま消えてしまうのは、少し可哀想だなあ…と思いました。

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「11ぴきのねことあほうどり」(馬場のぼる 著) あらすじと読書感想文

第1作目「11ひきのねこ」と同じかそれ以上に、オチの見事な絵本です(笑)

「11ぴきのねことあほうどり」の説明

「11ぴきのねことあほうどり」のあらすじ

※ストーリーの前半部のみ記載

11匹の猫はコロッケのお店を始めました。
ジャガイモを茹でて潰して、パン粉をつけて油で揚げて、みんなで作業を分担して毎日せっせと働き、どんどん作ってどんどん売りました。

11匹の猫のコロッケ屋さんは大繁盛しましたが、そのうち毎日少しずつ、コロッケが売れ残ってしまうようになりました。猫たちは残ったコロッケを毎日みんなで美味しく食べましたが、次第に猫たちはみんなコロッケをすっかり食べ飽きてしまい、鳥の丸焼きが食べたくなりました(笑)

そんな折、1匹の白いあほうどりが訪ねて来ました。そのあほうどりは、大きな数を数えられないので6こを「3こがふたつ」と数え、猫たちは陰で忍び笑いをもらします。そんなあほうどりが、コロッケを平らげた後「しあわせだ もう死んでもいい」と呟いたものですから、大変。猫たちは舌なめずりをして待ち構えます。しかもそのあほうどりは、全部で11羽の兄弟だと言うではありませんか。

「あほうどりくんの国に行って コロッケを作ってあげようじゃないか」ととらねこ大将が宣言し、11匹の猫は気球に乗って、空の旅に出ます。11匹の猫たちの鳥の丸焼き計画など想像もせずに、うかうかと自分の国へ先導してしまうあほうどりくんでしたが…

「11ぴきのねこ」シリーズについて

とらねこ大将率いる11匹の猫たちが、さまざまな冒険やチャレンジをするお話。11匹の猫たちは勇敢でわんぱくだが失敗も多く、総じて可愛らしいストーリーが多い。
現時点で7冊出版されている。発行された本は、下記の通り。(下にいくほど新しい本)

「11ぴきのねこ」
「11ぴきのねことあほうどり」
「11ぴきのねことぶた」
「11ぴきのねこ ふくろのなか」
「11ぴきのねことへんなねこ」
「11ぴきのねこ マラソン大会」
「11ぴきのねこ どろんこ」

こぐま社出版。定価1200円。

「11ぴきのねことあほうどり」の読書感想文

※ストーリーのネタばれを含みます。問題ない方のみお読みください。

この絵本の教訓は、友達を食べようとするとロクなことにならない、ということですね(笑) 登場する鳥こそ「あほうどり」という可哀想な名がついた鳥ですが、11匹の猫とあほうどり、どちらがより阿呆かは判断が難しいところです(笑)

この絵本は、今は看護師として働いている女性が「昔好きだったから」と貸して下さった絵本で、自分が幼い頃には読んだことがなかったのですが、可愛らしすぎるストーリーで、読んでみてとても気に入りました。

3~6才の男の子と女の子にこの絵本で読み聞かせしましたが、子ども受けが最も良かったのは、やはりストーリーのオチである11羽目のあほうどりが登場するシーンでした。

子どもを驚かせるように、11羽目のページだけ大きな声で読んだり、身体を揺らすように読んだりすると、子ども達も一緒になってキャッキャとはしゃいでくれて、読んでるこちらもとても楽しい時間を過ごせました。

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